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終・まるで夢から覚めたみたいに
――ぴこんっ
間抜けな音が響いたかと思うと、急に脳内がクリアになった。
あれ、どうして目の前に焔がいるんだろう。たしか学校で、階段から落ちて――。
それで、そうだ、黒川甲斐として生きていた記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったんだ。
まるで夢から覚めたみたいに頭がスッキリしている。だが今回困ったことがあるとしたら、夢の記憶が全て残っているということだ。
黒川甲斐の記憶を失い、前世の自分の意識だけが残っていた。そんな状態でも、甲斐はどうやら焔に惹かれつつあった。そのことを認識させられてしまい、ひどく恥ずかしい。
「甲斐……?」
焔が、不安そうにこちらを見ている。それが可愛いなと思えてしまって、口元が緩む。
「覚えてるよ、焔」
「甲斐!」
焔が突進してくるので、慌ててハンマーを放り投げる。これが焔に当たってしまえばまた厄介なことになるだろう。
ぎゅうぎゅうと痛いくらいに抱きしめられ、良かったと囁かれた。うん、思い出せて良かった。でもたぶん、思い出さなくても結局今の二人になれたような気がする。
「…………あ」
そういえば、ピコピコハンマーを使う前に、思わせぶりなことを言ってしまった気がする。あれ、焔は忘れていてくれないだろうか。
焔の腕の中でそんなことを考えるのだった。
……いつか、前世のこともちゃんと話すから、もう少しだけ。
※※※
「あれ、そもそも正岡くんは私たちが転生者だって知ってるんじゃなかったっけ」
「ああ」
「流石、黒川くんのこと盗聴してるものね。よっストーカー」
「でも、甲斐が言ってくるまでは別に聞かなくてもいいかな」
「ふーん?……それよりそのピコピコハンマーって鶴見博士はやっぱりブリザード様に使うつもりだったのかしら!ブリザード様の記憶喪失編も気になるわ!」
「さあね」
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