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②新番組が始まっていた
フレイムが終わったショックで死んでしまった前世の自分には、『水の戦士ブルー』の記憶がほとんどない。たしか敵はアッシュ……つまり、エタニティの新人と同じ名前だ。
「……星野、どうしよう」
自分と同じ前世の記憶がある星野光にしかこの悩みは相談できなかった。
「つまり、新番組が始まっていたためブラックナイトだけじゃなくてフレイムの出番も減ったのね」
「ああ、これは由々しき事態だ!」
せっかく推しの観察に専念できると思った矢先にこれである。
「まあいいんじゃない?仕事が落ち着いてるんならゆっくりデートでもしたら?それより、私もブルー見たいんだけど」
などと、突き放される。星野は甲斐たちの置かれた状況よりも、新番組が始まったことへの方がずっと気になるらしい。
「黒川くんと違って私は『水の戦士ブルー』もちゃんと見てたもん。フレブラほどの推しカプは無かったけどブルーの熱血でちょっとおバカなところはいい受けなの。残念ながら相手がいなかったけど」
「は、はあ」
「アッシュのキャラもいいの。あれも受け。やっぱり相手がいなかったけど!」
いつの間にか後輩も星野の(妄想の)毒牙にかかっていた。可哀想に。
「でもフレイムの世界ともだいぶ変わってたし、ブルーとアッシュにもいい相手が見つかるかも……私も二人の戦いを追いかけるわ!」
「……怪我しないようにな」
相談する相手を間違えた気がする。まあ、他にこんなこと言える相手はいないのだけど。
いや、一人だけ――
「最近週末も甲斐とのんびり出来て嬉しいな」
「……ああ」
毎週末のようにあったフレイムとブラックナイトの戦闘がほとんど無くなった。そのおかげでどちらかの部屋に入り浸っている。
呼び出しがないのはたしかにリラックスできるけど、フレイムの活躍を見られないということでもある。
甲斐はそれが、フレイムが最終回を迎えたからだと知っている。本当だったらブラックナイトが消え、盛り上がる最終回だったのに、こうしていつ終わったのかわからないような消化不良な終わり方をしてしまった。
今後もフレイムを見ることができるのだろうか。甲斐はブラックナイトとして戦うことが出来るのか。そればかり気になってしまう。
「甲斐、どうしたの?」
「なんでもない」
「俺以外のこと考えてた?」
「違うよ」
否定しても信じられなかったのか、不機嫌そうな焔がソファに押し倒してくる。唇を尖らせてもカッコよくて、可愛らしく見えてしまうのは、ズルい。
独占欲の強い恋人は甲斐の頭の中が自分でいっぱいでないと許せないらしい。そんな執着が心地よいと思ってしまう甲斐も色々とダメな気がする。
だけど、今気になるのは……
たとえば、ブラックナイトで無くなった甲斐が、焔の隣にいてふさわしい存在なのか。
それがどうしても気になって、甲斐は今日も前世の記憶のことを打ち明けられなかった。
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