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終・焔の機嫌を直す方法
「それで、その……ブルーをボコボコにすればフレイムの出番が増えるかなって思いました」
「そうなんだ」
やたら甘いお仕置の後、汗やら何やらでベタベタになった体を清められ、ようやく一心地ついたところで。焔からどうしてブルーと戦っていたのかと尋ねられた。
正直に話したが、まだ焔は不満なようだ。それはまあ、予想がついていた。
「甲斐は本当にフレイムが好きなんだね」
にっこりとしてはいるけれど、間違いなくフレイムに嫉妬しているやつだ。自分自身へ嫉妬ってと思わなくもないけど、甲斐だってブラックナイトに妬いたことがあるので黙っておく。
そんな焔の機嫌を直す方法はわかっている。
「……あと、フレイムはずっと一人で戦ってたのに、仲間ができて嫉妬した」
大好きなフレイムの敵で親友で、それから恋人で。そんな山盛りの状態なのに、羨んだ。フレイムの理解者は自分だけだと思い上がっていた。だから、ブルーが羨ましかった。
「ふーん」
「ふーんって。口元にやけてる。イケメンが台無し」
気のない返事をしつつも焔は嬉しそうにしていて、やはり機嫌を直した。
「俺としては新番組が始まったしフレイムを引退しようと思ったんだけど、甲斐が引退しないから辞められないんだよね。あんなやつと浮気されても困るし」
「いんた……ダメ!たまにでいいから……いや、俺がブラックナイトを辞めなければフレイムも辞めないの?」
「だって甲斐と戦っていいのは俺だけだもん」
さて、これは喜んでいいのか。
甲斐がブラックナイトを辞めなければ焔はフレイムを辞めないけれど、フレイムはブラックナイト以外とは戦う気がなくて。
ということはフレイムのバトルを第三者として観察することは難しく……でも、今まで通り、一番近くで見ていられる。
それならそれでいいのかと納得しかけたところで、とあるキーワードが引っかかった。
「『新番組』?」
「ああ、フレイムは終わって『水の戦士ブルー』が始まったんだよね。甲斐はそっちはあんまり見てないんだよね。良かったよ」
ブルーも好きなんて言われたらどうしようかと思った、とニコニコしている焔に、卒倒しそうになる。
えっ、だって、その言い方だとまるで――
「俺が転生してるって、知ってる?」
そうだ、だって忘れていたけどこの男、たぶん最初に甲斐を脅した時は盗聴器を仕掛けていた。あの時聞こえてきたのは、自室で悶えていた自分の声で。
――ああほんと死んで良かった、生まれ変わって良かった
なんて、そんなことを言ったような気がする。
「うん」
「マジか」
いつどうやって打ち明けようと悩んでいたのは何だったのか。
結局のところ、甲斐は焔に隠し事なんて出来ないらしい。
それから、フレイムファンの青年と仲良くなった甲斐がまたお仕置をされたり。
ブルーが厄介なファンに追いかけ回されたり。
アッシュが痴話喧嘩に巻き込まれたり。
色々なことが起きるのだが、甲斐は今日も推しを観察し続ける。
テレビの前じゃない、特等席で。
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