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第2話

解剖学の実習当日、実習着に着替え解剖実習の行われる部屋へいく途中先生に呼び止められ班の変更を伝えられた。変更になった班のメンバーを見て早くも帰りたい気分になっていた。  帰ってしまおうか、とも思ったけれど実習に出なければ単位はもらえない。トボトボと廊下を歩くとすぐに実習をする部屋に着いた。振り分けられた席につけばすぐに人が集まってくる。全員が集まるとなんとなく自己紹介する流れになった。  振り分けられた班は男ばかりの班だった。それはいい、問題は振り分けられた班にいる男だ。 「中学以来だね、春眞。よろしく。」 そう言って笑顔で手を差し出してくる男。辰巳よりは低いが、平均よりは高い身長。後ろで一括りにした黒髪に黒いアーモンドアイ。名前を佐藤 蓮。中学の時の同級生であり、春眞の苦手とする男である。  春眞は今出来る最高の笑顔を顔に貼り付け蓮の手を握った。 「久しぶり、今日はよろしく」  解剖学の実習は2コマ行われ、主に歯学部の学生が作業し春眞たち技工科の学生は見ているだけだった。もっと蓮に絡まれるかと思いきや実習中に絡まれることはなかった。声をかけられることはあったがそれは必要最低限で、しかも物腰も柔らかく喋りやすい雰囲気で、なんだか春眞は拍子抜けしてしまった。なんだ、絡んでこないじゃないか。中学の時の同級生なんてそんなもんだ。変に緊張して損したと、安心しきっていた。できることならこのまま絡まれることなく大学生活を終えたい。と春眞はこっそり祈った。  しかし、数日でその願いは棄却されることとなった。  数日後、春眞は蓮と一緒にカフェテリアにいた。別に2人が仲良くなった訳ではない。春眞が1人で解剖学実習のレポートを作っていたところに蓮がきたのだ。そしてあれよあれよと言ううちになぜか向かいの席に蓮が座る流れになり今に至る。春眞の祈りを神様は無下にも却下したらしい。  「実は、春眞と話たくて。ここ数日タイミングを伺っていたんだ。そしたら、さっき偶然1人でいる春眞を見かけたから。」 パソコンに向かって、カタカタとタイピングし続ける春眞に向かって蓮が急に口を開いた。  「えぇ?話したいことって?」  中学卒業から今まで会ったこともなかった。何を今更話すのだろうか。   蓮は実習の時のように真剣な面持ちで、何となく緊張してしまう。  「中学の時のこと、謝りたくて。ごめん。俺、春眞にひどいことした」 蓮がおずおずと切り出した。  中学の時、2人は同じ中学だった。そして、春眞は蓮にイジメられていたのだった。それもトラウマになるほど手酷いものだったのだ。  よく、イジメた方はそんなつもりはないとか、忘れていたりする。春眞自身も中学の時に受けたイジメは、揶揄いや中学生特有のお遊びが行き過ぎた結果だと思っていた。それを理解していたからまさかイジメの主謀者に謝られるとは思っても見なかったのである。  「まさか、謝られるとは思わなかった。それに覚えてるとも。」  「ずっと謝りたかったんだ。」  本当にすまないと思っているのだろう。蓮の顔は、眉は苦しげによせられ、口元も苦々しく歪められていた。静かに謝り、頭を下げる蓮は心から罪を悔い断罪を待つ罪人にように見えた。  そんな蓮の姿を見ても春眞の心を占めたのは、そんなに断罪を待つ人みたいに謝るなよ。イジメの主犯だったくせに。という冷たい感情だけだった。 だってそうだろう、あんなに手酷くイジメた癖になにを今更。放って置いて欲しかった。謝られたら、許すって言うしか無いじゃないか。俺に対してすまないって気持ちがあるなら 俺の前から消えてくれよ。  そんなこと言えるはずもなかった。 「気にしてないよ、大丈夫。」  そう言うので精一杯だった。当たり障りの無い言葉をいうのも本当は嫌だった。  とにかく蓮と一緒にいたくなくて、今すぐどこかへ消えたくなった。  蓮の顔は見ずに急いで机に散らばる荷物をカバンに突っ込んで席を立つ。ここから一刻も早く立ち去って1人になりたかった。 「ごめん、俺この後用事あってさ、もう行くね。」 そう言ってそそくさとレストランを後にした。  残された蓮は一人座りつくし、春眞のいなくなった席をぼんやりと見つめるのだった。

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