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第9話

「この前はありがと。これ、タオルとお礼のコーヒー。ドリップの奴。」 次の合同演習の日。蓮が早めに到着すると春眞が次に実験室に入ってきて口早に言った。 差し出された紙袋を受け取ると春眞は背を向けもう実験ノートやパソコンを開いてレポートの続きを書こうとしていた。  授業開始までは一時間弱ある。早めについたにしては早すぎる。蓮は春眞に少し話かけてみたかった。しかし春眞はレポートを書くのに集中しておりちらりともこちらを見ない。仕方なく隣の机に腰かけ春眞の作業を横目で観察する。あんまりじろじろ見ると春眞は気づいて逃げてしまうだろうから。  数十分そうしていると2人のスマホがピロンとなった。春眞は鞄からスマホを取り出すと画面をタップし確認している。通知は学校から出しかも研究室の担当の三角先生ではないか。連絡によると今日、これから緊急の会議があるらしく今日の研究の授業は繰越となるそうだ。何時に終わるかわからないらしく今日一日、歯学部は全部休みらしい。  「蓮、今日の授業は無いって。三角先生はこれから緊急の会議があるみたい。だから今日は歯学部と技工科は授業お休みだって。」 そう春眞はいうとまたスマホをポチポチといじりだす。蓮に遊びの誘いをするメッセージと送るとスマホをポケットにしまい鞄に荷物を詰め込み始めた。 それを知らない蓮は、これから授業がないということは遊びに誘えるかもしれない。遊びは無理でもお茶位なら。そう思い蓮が口を開きかけると。 「この前はありがと。授業ないみたいだし俺帰るね。」 そう言って春眞は蓮を研究室に残しさっさと出て行った。 「うん、言ってらっしゃい。」 扉はバタリと音を立て閉まった。 「嫌われてるなー俺。」 蓮はそう言うとクスリと笑い扉をにらみつけるのだった。  

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