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第10話
あ、演習道具忘れた。それに今回の研究授業用のUSBも忘れた。鞄に入らなかったから手提げに入れて用意していたけど、玄関に忘れてしまった。どうしよう。USB は今日は午後だけだからいいけど。道具がないと困る。実習できない。
研究机の上をきょろきょろと見て何か代わりになるものはないかと探すが代わりになりそうな道具は無い。その他の道具もすべて技工士科の棟にある自分のロッカーにおいて来てしまった。
どうしようか。USBも無いからレポートの作成もできないし。実験も今手持ちの道具じゃできない。
「春眞、どうしたの。さっきからなんか探してる?」
そう言って蓮が春眞の近くへやってくる。
「あぁ、実は演習道具忘れてきちゃって。」
「えぇっ。喜舎場君演習道具忘れたの。今日何しに来たのさ。」
少し離れたところに座っていた和田が大きな声で言う。春眞と蓮はそんなに大きな声で話していなかったのに和田には聞こえたらしい。
「うん。忘れちゃった。でも俺の担当の実験は終わってるし和田には関係ないよ。」
ついイラっとして春眞は和田を見ずに言い返した。
いつもそうだ。春眞には和田がウザがらみしてくるように思えてならなかった。和田にそんなつもりがなくてもそこまで親しくもないに貶すような物言いをされるのは気分が悪い。正直言って春眞は和田の事が嫌いだった。
「いやー実は俺も忘れちゃったんだよね。忘れ物仲間だ。今日は皆の補助とか実験ノートまとめておくよ。2人で確認しながらならミスも少ないでしょ。」
春眞の言葉を聞いた和田は何か言いたそうだったが、その前に蓮が大きな声で話を遮った。和田は何か言いたそうだったが蓮には強く出られないのか押し黙って実験の続きを始めてしまった。
まただ、蓮はよく春眞を助けてくれる。この前の実験の時もそうだったし、春眞がレポートで悩んでいるときもアドバイスをくれた。今更優しくされたって俺は騙されないぞ。春眞は蓮の後ろ姿にそう念じるのだった。
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