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38 話をしよう
榎井と話したことで、思いのほか頭の中が整理された気がする。部屋に帰った俺は、ベッドの上でその事を考えていた。
(俺は、何が嫌だったかな)
幼馴染みだったこと? 言わなかったこと?
「……」
俺、色々自分のことを話したつもりで居たけど、誘拐されたことは言わなかった。言われても、面白い話じゃないと思ってたし。
(嫌われたら、怖かった……)
俺の人間性は、幼い頃から両親に否定され、周囲の人間に傷つけられてきた。自立してからは、そんなことは少なくなったけど、失った自尊心を取り戻すのは難しい。適当に生きてきたのは、『適当なヤツ』だと思われていたほうが楽だったから。
(本当は)
傷ついていた。傷ついたから、何でもないことのように振る舞った。
誘拐されて、男の身体を覚えさせられたことが、恐ろしかった。優しいと思った大人が豹変し、攻撃的になるのは恐ろしい。逆らえず身体を開かれたことを知った両親は、汚らわしいものを見る眼で俺を見た。
悪いのは俺で、ついていった俺が悪く、誘いに乗った俺が悪いそうだ。
どこで話が漏れたのか、噂をする心ない大人も、その子供も、最低で嫌なヤツばかりだった。好奇心で、性行為があったのかを平然と聞いてくる同級生が気持ち悪くて、強がって誘ってやった。
そのうちに、誰とでもヤらせてくれるなんて噂がたって、あの町で生きていくのは苦しくなった。
両親の離婚をきっかけに地元を離れたとき。
俺は、凄く。凄く、ホッとした。
けれど、満たされなかった承認欲求と、人の気を引く方法をそれしか知らない愚かさで、地元を離れても男を誘うのを止められなかった。
セックスをしているうちは愛されている気がして。行為が終われば虚しさが募った。
ネットで裏アカを作ったのも、結局は満たされたかったから。どこかで、誰かに愛して欲しくて、満たして欲しくて。
それが、良輔だった。
良輔だけが、俺を心配し。怒ってくれたのだ。
(良輔……)
考えても、良輔の気持ちは解らない。同情は、していただろう。でも、大切にもしてくれていた。
『季節が過ぎちまったから、今年は無理だけど。来年来てみるか?』
来年。来年の約束を、してくれた。
(良輔を、信じたい……)
まだ、告白だって、していない。
天井を見上げ、手を伸ばす。良輔は、待っていてくれるだろうか。あの日から、俺は逃げている。
(明日。明日、会社から帰ったら――)
良輔と、話をしよう。
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