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43 仲直り
厚かましくも一番風呂を貰ってしまった。一応、ちゃんと固辞したのだが、結局押しきられてしまったのだ。
(あーっ、ホント空気読めないヤツじゃん)
良輔が風呂から出るまでの間、ジタバタして耐える。急に押し掛けて、食事まで用意して貰って、風呂まで貰って。お母さんは始終ニコニコしてたけど、内心はどう想ってるのか解らないし。なにしろ、大事な一人息子を誘惑したのだ。良い気持ちなハズがない。お父さんの方も、何を考えているか解らない。俺への感想はなく、あまり帰ってこない良輔への文句と、逐一興味津々な美佳に顔をしかめていたばかりだ。
(ああ、どうしよう……)
嫌われたかな。嫌われたよな。美佳が好意的なのが救われる。
美佳は兄が男の恋人を連れてきたというのに、嫌悪感どころか好奇心いっぱいのようだ。メッセージも交換して、デートの写真を見せてとせがまれた。
思い悩みながらボンヤリしていると、良輔が戻ってきた。
「なにしてんの?」
「反省」
なんだそれ、と笑いながら、良輔が隣に座った。風呂上がりの熱い体温を感じて、ドキリとする。
「あ、これ、貸して貰ってどうもな。ホテルに泊まるつもりだったから……」
「ああ。キツくないか?」
「大丈夫。ちと緩いくらい」
襟がちょっと開くんだよな。と、笑いながら襟元を開けて見せると、良輔がおもむろに首筋に唇を寄せてきた。
「ちょっ」
ちゅっと音を立て、今度は唇に触れてくる。キスをしながら服に滑り込む手のひらに、驚いて腿を叩いた。
「おいっ……」
「嫌? 仲直り、ってことで」
「嫌じゃねーけどっ……バレるだろ!」
「うん。だから、声控えて」
控えて、で済むか。赤い顔で良輔を睨むが、お構いなしに布団に押し倒される。
「っ、こらっ……。シーツ、汚れるだろ……」
「タオル敷けば」
どうやら止める気などないらしく、良輔は首筋に何度もキスをしながら借りた服を脱がしにかかる。
「良輔……ん」
「歩、好きだ……」
掠れた声でそう言われれば、抵抗できるわけがない。観念して、押し返していた腕を背中に回す。
「俺も、好き……」
赤い顔で返事をすれば、満足した顔で良輔が笑う。そんな笑顔を見せられたら、何でも許してしまいそうだ。
良輔の手が胸を這う。指先が突起に触れ、ピクンと肩が揺れる。
「んぁ」
「しーっ……」
静かにしろと言われても、声が出てしまう。両手で口を塞いで、舌先が乳首を転がす感触に唇を噛む。
(っん、ぅ……)
ピクッと背筋を震わせ、快感に耐える。良輔の家は昔ながらの造りで、部屋を仕切っているのはドアではなく襖だ。当然気密性が低いので、ちょっとすれば音など漏れてしまう。服を脱がせる衣擦れの音がやけに大きく感じる。ドキドキして、心臓がおかしくなりそうだ。
良輔の唇は胸から腹へ、腹から下腹部へとゆっくり移動し、やがて鼠径部に至る。ちゅっと音を立ててキスをされ、ゾクッと背筋が粟立った。もどかしいような快楽に潤む瞳を良輔に向ける。良輔はぐっと俺の腿を持ち上げ尻を浮かせると、そのままアナルに舌を這わせた。
(っ――!)
ぞくり、快感に悶える脚を掴まれる。舌が生き物のようにヒダを舐める感触に、勝手に腿がピクピクと震える。
「っ、良輔……」
小声で抗議すると、良輔は顔を上げてこともなげな顔をする。
「ローションねえから」
(だからってっ……)
舐めて解そうという事らしい。平然としたようすの良輔に唇を結ぶ。前にも舐められたことがあったが、抵抗はないらしい。俺としては、こんな姿を万が一見られたら、生きた心地がしないというものだ。
「、もう、良いからっ……」
多少苦しくても、そちらの方がマシな気がしてそう口にする。良輔は迷ったようだったが、タオルの上に俺を寝かせると上にのしかかってきた。アナルに先端が押し付けられる。既に酷く興奮していたようで、良輔のそれは硬かった。
「……」
どちらともなく無言で舌を絡め合い、ゆっくりと挿入される。良輔の背に腕を回し、挿入の苦しさに耐える。肉輪をみちみちと押し拡げながら入る塊に、内臓がせりあがるような感じがした。
(う、っ……)
「大丈夫、か?」
掠れた声で囁かれ、こくこくと頷く。ぎゅっと良輔の背にしがみ付き、隙間がないほどピタリと肌を合わせる。
「……良輔とケンカして、不安だった……。もう、こうやって触れ合えないのかと思って……」
「……俺も。俺も、だよ。それと……不安にさせてゴメン」
「……イヤ」
ぎゅっと背に回した腕に力を込め、良輔を抱きしめる。
「もう、イヤだからな」
「うん」
顔が近づき、唇を重ねる。舌を絡めながら、良輔が腰を打ち付けた。
「んっ! う、んっ……!」
声を呑み込むように、唇を重ねる。つながった部分がじゅぷじゅぷと水音を立てた。
(良輔、良輔……)
眦から、涙がこぼれる。
故郷の海が見えるこの街に、戻ってくると思っていなかった。愛してくれる人が出来るとも思っておらず、誰かを愛することが出来るとも思っていなかった。
この街で、良輔に愛されている。
そんな、奇跡のような時間を。
俺はただ、瞳を閉じて静かに感じていた。
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