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第13話

 固まるアダマスに対し、テイルラは自らの手で纏っていたローブの腰紐を解く。紐の両端をはらりと落とし、隙間から素肌を覗かせる。そんな姿で、テイルラはひたひたと素足を進め、アダマスに身を寄せる。その掌が、アダマスに触れ、同時にテイルラは押し付けるようにアダマスの腰に大腿の体温を乗せた。 「それに、そういう目的ならわざわざより高い金出して買う必要なんてないだろ。ここは娼館で、オレは身売り。なら、することは一つ。お前のここも、ずっとシたいって言ってるじゃん」  テイルラはわざとアダマスの眼前に首筋を突き出すようにして甘く囁きかける。目を逸らしていた欲情が一瞬で沸き立つ。今すぐその透き通った白に歯を立ててやりたい。抱きすくめてベッドに縫い付けたい。ギリギリの欲望を抑えつけ、アダマスはテイルラの長い耳を指先で撫でる。敏感な耳が、ぴくんと跳ねテイルラが頭を胸に押し付けてくる。 「一つだけ、聞かせてくれ」 「なんだ? 好みのタイプ?」 「茶化すな。……テイルラ、お前は獣族が怖いのか?」 「え? オレが? なんで?」 「昨日のことだ。お前は何が怖かった? 何が恐ろしくて、あんな顔をした? それを教えて欲しい。答えによっては、俺はお前を抱けない」  鼻先を漂うテイルラの香りに誘われるアダマスの脳裏を過るのは、昨夜のこと。テイルラはこれから起きるであろうことに間違いなく表情を引き攣らせた。今でこそこうやって何でもないように振舞っているが、弱みを見せることを恐れた強がりだという可能性だって十二分に有り得る。もし、獣族が怖いというのなら、買う買わないの話以前に、抱くべきですらない。 「いいよ、気にしないで」 「そうはいかない。嫌なら嫌だと言え」 「貴族嫌いって言えるやつが獣族嫌いって言えないわけないだろ」 「ではなぜだ。理由を言え」 「っ、もう、しつこいな! オレは人族としかセックスしたことないの! 獣族の客とるのなんて初めてで、その、お前のが、思ってたよりおっきかったから、人族のしか知らないけど入るかなって、ちょっと不安になっただけで! うぅ……、この童貞……! 言わせるな!」  ガバっと耳を揺らして胸元から顔を起こしたテイルラの顔は羞恥で赤く染まっていた。誘惑する時はそんな反応しなかったくせに、それは恥ずかしいのか。経験豊富そうに見えたテイルラの性的な弱点。ならば異種族との行為はお互いに初めてなのか。アダマスは種族問わず初経験ではあるが、張り合える点があるのは都合が良い。  ——この身体は、まだ獣族を知らない。  その事実はアダマスを堰き止めていた理性の息の根を止めるには十分だった。それなら、存分に教え込んでやろう。獣族の、野性を孕んだ熱を。なんて言える経験数ではないが、すでにアダマスの全身には獣の研ぎ澄まされた本能が回っていた。  目元まで赤く染めたテイルラを、アダマスは軽々ひょいと持ち上げる。決して小さな体ではないが、見た目に反してテイルラの身体は軽い。しっかり食事をとっているのだろうか。アダマスは急に抱えられ慌ててひしとしがみついたテイルラをベッドまで運ぶ。整えられたシーツの上にその身を寝かせると、白い背景に色素の薄い茶髪が散らばり、共に赤褐色の耳がぺたんと落ち、耳の先の白がシーツに混じっていく。はだけた仄かな熱を宿した柔肌が、誘うような曲線を描き、こちらを見上げる夜空の瞳はアダマスを待ち受けていた。性的な魅力というものは、こんなに自らの内に潜む雄を掻き立てるものなのか。すぐにでもその身を貫き掻き乱したいところだが、そういうわけにはいかない。  ベッドに仰向けに転がり足を曲げるテイルラの前に腰を置いたアダマスは、軽く盛り上がった胸にそっと手を下ろす。ぷくと小粒のような実りを見せた飾りを指の腹でうりうりと弄ってみると、テイルラはわずかに息を吐き目をつむる。掌を通して伝わってくる熱が、柔らかさが、今テイルラに触れているということを直接伝えてくる。想像以上に、刺激的な光景。これで挿入したら、どれほど満たされるのか。  アダマスは逸る欲を飲み、胸を弄っていた手をそのまま脇腹、腰と伝わせ、とんと下腹部を軽く押す。するとこちらに露出していた小さな蕾がきゅんと震える。無意識のものなのだろうが、早くと急かしているように見えてしまう。テイルラの身体はすでに熱を纏い、緩やかな芯と光る体液で身体を濡らしていた。  テイルラは男のスカーレットであるから、その身体の作りは男のものである。それを主張する外性器は腹に向けて背を伸ばしていた。その背後では、雄を受け入れる穴がひくと震え、先走った液体を溢している。 「あんまり、見るなよ」 「……スカーレットというのはこんなにすぐさま濡れるものなのか?」 「なんでもいいだろ、……いいから、早く、……さわって」  少しずつ声量が減っていき、最後はほとんど聞こえなかった。スカーレットは性別問わず濡れるものというのは知っているが、それでも色気のある雰囲気になってから少なからず時間はかかるはずだ。これも、テイルラが特別なスカーレットでフェロモンを制御できないからなのだろうか。  この場でその答えを知るのはテイルラのみで、当の本人はどうやらそれどころではない様子。それはアダマスも同じで、アダマスの手に触れさせようと腰をくねらせる淫靡な仕草に疑問はすぐに頭から消える。もはやこのまま焦らすのは酷だろう。気のせいか、テイルラの方がアダマスよりもよっぽど余裕がないようにも見える。 「ぁっ……、んッ、んん……」  熱い掌で震える先を包み込むと、テイルラはぴくと耳を震えさせた。本能的にそこが真っ先に反応してしまうのだろうか。テイルラはそれが恥ずかしいのか、両手で片方ずつ耳の先を握って身を横に倒す。細い指先を耳の毛の間に沈めて握りしめつつ、片耳は口に当ててついでに声を抑えつけていた。アダマスは陰茎を軽く握り込み、カリ首に指の腹を当て刺激を送りつつ口に当てていた耳を引き剥がす。 「あ、なんで……」 「口を塞ぐな。俺は愛撫もさほど経験がない。痛みがあったとき咄嗟に伝えられないだろう」 「ぅ、ん……ずる……ッあ!」 「どこがどうずるいんだ」  容赦なく亀頭にも強めの刺激を送るとテイルラの身体は面白いくらいの反応を返した。これだけ快楽を拾い、こちらの行為に身を震わせてくれるというのは攻める側にもとても刺激的だった。しかし少し感じすぎている、ようにも見える。水商売をする者特有の演技なのか、それとも溜まっているからなのか、アダマスには判断がつかない。一度抜いてやるべきかと、陰茎に添えていた手を上下に扱いてみると、ふとテイルラが足を動かしアダマスの腹を軽く蹴った。 「そっちでイきたくない……、後ろがいい」  言われてアダマスが視線を落とした先では、蕾が相変わらず愛液を纏っていた。囁いたテイルラの星空には欲情が混ざり、紫色のグラデーションを覗かせているように錯覚する。吐き出す息には欲情が乗り、より強い快楽を、その先にある絶頂を待ちわびているようにも思えた。

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