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第14話

 言われるがままに、アダマスは手を止める。そしてテイルラの腰が少し浮くように誘導し、よりアナルがこちらに向くように傾ける。周囲を濡らした透明な液体を指に絡ませ、受け入れることを知っているためか多少赤らみ自ら筋肉を弛緩させている蕾を指の先で軽くトントンと突く。それから会陰と蕾とを何度か行き来し指を軽く滑らせ、その流れで中指を体内へと忍ばせる。 「あぅっ、ぁ、ん……」 「痛むか?」 「んん、痛くない……指、きもちいから、動かして……」  指を包み込む、波打つような内壁の動き。入り口辺りをきゅんと締め、呼吸するように収縮する襞。すでにもうここを自身で貫きたくて仕方がない。最高の快楽が得られるであろうことが、指を通して伝わってくる。口を塞ぐなと言われたからか、テイルラは頭を横に倒したまま片耳の先に両手を添えていた。手汗のせいか、耳の先の毛だけがペタンと倒れている。続く快楽に酔いたいのか、テイルラは目を閉じ送られる刺激に意識を寄せていた。 「んっ、ん、は、ぅっ……」 「…………」 「ぁ、いっ……! そこじゃない……っ!」 「あ、あぁ、悪い」  前後左右、かき乱すように指を回し襞を漁っていると不意に後孔が強く締められる。以前別のスカーレットに「男の身体にもちゃんと気持ちがいいところがある」と教えられたことがあり、見様見真似でそれを探してみたのだが、どうやら誤って別のところに触れてしまったらしい。慌てて抜こうとしたアダマスの指を止めるように、テイルラが再び後ろをきつく締める。 「テイルラ?」 「抜かないでいい……、教えるから」  テイルラは仰向けの体勢のまま、身を少し起こす。そして片手を伸ばし、アダマスの手首を掴む。「指一本増やして、少しだけ曲げて」と囁く声に従い、人差し指を添え改めて挿入し軽く指を曲げる。するとテイルラは自らの手でアダマスの手を導く。するすると内壁をなぞり、テイルラは微かに吐息を漏らす。その光景はとても、視覚的に毒でしかなくて、テイルラの誘導を無視して奥へと進めたくなる。 「うん?」 「そこ、ぎゅってして?」  テイルラが導いたのは、睾丸の裏辺りの位置。指の腹にはそれまでと違うより柔らかい感触があった。軽く曲げていた指を、そこを押すように折ってみる。 「ひぁッ! あ、あっ、そこ……!」 「ここがいいのか」 「あぅっ、っ、そう、そうだからっ! んな何回もすんなッ!」  甘く撫でる声をあげ、ぱたんと再びベッドに身を預けたテイルラが悪態をついてくる。といっても、アダマスが体内で指を動かしわざとくちゅくちゅと甘い音を立てつつ、教えられた点を突く度に甘い声をあげる状態で言われても威圧感などない。 「自分で教えといてイヤなのか」 「んっ、あ……、だって、これ、イく、からっ! お前のでイきたい、のに……」  「……っ!」  喘ぎ声に混じって呟かれたねだる言葉に、思わずアダマスの手が止まる。ゆっくりとアダマスへと視線を向けたテイルラの瞳は、「欲しい」と訴えていた。他でもないテイルラが、自身を求めている。  もう、限界だった。 「あっ……、アダマス……」 「加減の仕方は分からん。痛かったらできるだけ大きな声で叫べ」  指を引き抜いて、まだ閉じ切らないうちにひたりと先端を添える。アダマスの自身はこれでもかというほどそそり立っていた。ほんの微かにテイルラが身を引く。だが、アダマスはもうそれで止まりはしない。両手でテイルラの美しい腰を掴み浮かせると、お互いの腰の高さを完全に合わせる。もはやテイルラに逃げ道はない。観念するようにシーツに手を這わせ、皺を作る。 「んぅッ、ん、ぁ、……ッ、は、ぁ……、はいった……?」 「まだ七割だ、痛むか?」 「痛くない……アダマスの、熱くて、きもちい……」  極力息を詰めないように、必死にアダマスを受け入れていくテイルラが見せた恍惚とした蕩けた笑み。その表情を引き出したのは、己の性器に違いない。  その事実が、アダマスの野性を呼び覚ました。 「アダマ、ス? ひっ……、いあァッッ!」  気づけば、それまで少しずつ進めていた腰を一気に押し込んでいた。突然経験したことのない質量のものが内臓を押し上げ、テイルラは高く声をあげびくりと腰を跳ねさせる。だがアダマスはそんなことには見向きもせず、初めて食らいつく雌を宿した身体に深く腰を打ち付ける。 「ばっ、か……ッ! がっつくなっ、てッ! あぐっ、あ、ああッ!」  叫声に近い声を上げたテイルラの目に映るのは、すでに据わった一匹の獣の瞳だけだった。ベッドが軋む音も、二つの身体がぶつかる音も、すべてがアダマスを駆り立てる。行き過ぎた快楽に怯えているのか、テイルラは反射的に片手をアダマスの腹に触れさせるがそれで止まるはずもない。ガツンというような強い突き上げに、十分に濡れた後孔が卑猥な音を連れてくる。 「あっ、あぁッ! っ、ぅんッ、……ひあぁッ!」  強すぎる刺激に、テイルラは無意識にベッドを爪先で蹴り、アダマスから逃れようとした。だがそんなものはあえなく捕えられ、アダマスが突き上げるのと同時に腰を引き寄せられ、より強い衝撃が頬を濡らしていく。身を揺さぶられるのに合わせて、長い耳がゆらゆらと揺れていた。前がぼやけて何も見えないだろうに、それでも健気に鳴き声をあげる姿は、アダマスが長年秘めていたものを満たしていく。 「あ、あッ、だめ、だめだ……はッ、ぁ、ぅあッ!」  最初は苦しそうだったテイルラの声は順調に快感を帯びた嬌声に変わっていく。テイルラの身体は質量のあるアダマスにとっても上質なものだった。変わらずきゅっと根元を締め付け、内壁を脈打たせ、触れる襞が欲を満たしていく。スカーレットというのは、こんなにも良いものなのか。  ——いや、違う。  良いのは、ただのスカーレットではなく、混血のスカーレットたる、テイルラ・ベルスーズという男の全て。 「ぁ、あ、あッ! くる、もうっ、ぁ、あッ!」  アダマスは自ら浮かせるようになったテイルラの腰から手を離し、縮こまっていたテイルラの両膝を大きく左右に開かせる。眼前に広がるのは、汗で濡れ、欲で赤みを孕んだ美しい曲線。振り乱した髪も、律動に合わせて揺れる耳も、淫蕩に沈み快感の虜となりぐちゃぐちゃになった顔も、鈴なりの乳首、浮き上がった腰、力の入った指先、先を濡らし続けるテイルラの雄、そして絶頂が近いことを示し、アダマスの性を搾り取ろうとする強い締め付け。何もかもが、アダマスを惹き付けて離さない。  そんな淫らな肢体を堪能し、アダマスは開いた両膝を倒し、自らの身も傾かせテイルラの脇腹の辺りに手を突く。それからスパートだと言うように、体重を乗せた重い律動をテイルラへと送り込む。 「やッ、ぁアッ! ほんとにイくッ、イっちゃうって!」  深く、激しく、重い。その一発一発にテイルラは叫ぶような嬌声をあげる。それが、アダマスには堪らなくて。この身体をこんなにも掻き乱しているのは、この俺の性器だと、アダマスを深くまで満たしていく。 「んッ、ひぅっ、イ、く……っ! ぁ、——ッッ!」 「……っ!」  声も出ないほどの絶頂感がテイルラを襲い、身体を震わせるのと同時にアダマスを強く締め付ける。その力強い刺激は、そのままテイルラの中に欲を吐き出させた。自らが出したものを感じつつ、アダマスは部屋に響く二人分の荒い呼吸に酔いしれる。  誰かと交わることは、こんなにも満たされることなのか。そんな淡い満足感が、アダマスの心を占めていく。 「アダマス……」  ふと、テイルラがゆっくり呼吸をしながら吐息混じりにアダマスの名を呼ぶ。テイルラもテイルラでまだ淡い快楽の中にいるようで、ぼんやりとした瞳がアダマスを見上げていた。 「……悪い、つらかったか」 「そんなこと、言ってないだろ。アダマスの、おっきくて、固くて、すごくきもちよかった」 「……阿呆が、抜いてもないのにそんなこと言うな」 「オレは? オレとするの、きもちよかった?」 「っ……、あぁ、そう、だな」  最高だった、と言えないのはアダマスの中にある余計な矜持。それが本心であるという証拠は、一度達したにも関わらず「まだ足りない」とでも言うように萎えない自身が示している。テイルラの身体が、熱が名残惜しくて、腰が引けない。アダマスの答えに、テイルラが「やったぁ」と子どものように無邪気に笑うものだからより芯を持ってしまう。 「なぁ、なら、もっかいシようよ」 「は? しかし、お前は」 「平気だよ。それより、オレもっとアダマスと気持ちよくなりたい。アダマスのも足りないって言ってるしさ、ね、抜かずにもう一発、シよ?」  アダマスの腕を掴みながら微笑む彼は、まるで淫魔と見紛うようだった。瞬間、まるでアダマスを逃がさないとでも言うようなあのフェロモンの香りがアダマスの鼻を撫でた。  その香りに誘われるように。アダマスはテイルラと共に、長い夜を過ごすことになるのだった。

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