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第50話
糸を引くアナルから指を抜き、アダマスも己の自身を空気に晒す。それは、今すぐにでもテイルラを我が物にしたいと震えていた。
と、両膝を突いてテイルラに向かおうとしていたアダマスの肩が押される。それは、木の幹から背を離し、待ちきれないと言わんばかりに身を寄せたテイルラの手が乗せられたからだった。テイルラはアダマスに腰を寄せ、膝立ちになると後ろ手でアダマスの性器に触れる。そしてそれを己の後孔に当てると、自ら腰を下ろし挿入していく。
「っ、ぁ……、アダム、あったかい……」
「それはお前だろ……」
テイルラの燃えるような体温がアダマスを包んでいく。テイルラが最後まで腰を下ろし、一度息をついたことを確認すると、アダマスはその華奢な背中に手を回す。それから一度腰を持ち上げ、胡座をかくように足を交差しテイルラを支えると、テイルラもまたアダマスの肩に手を回し、膝を折って完全にアダマスの上に座る体勢になった。
しっかりと最奥を貫いた状態、アダマスはそっとテイルラの腰の下辺りの丸い尾に触れ、それを手のひらで包み込みながら腰を前後にグラインドさせると結合部が音を立てた。
「あ……ッ、ん、んッ、うひゃっ! ぁ、や、ひんッ! しっぽ、ぎゅッってするの、だめ……っ!」
「……っ、」
ふるふると左右に首を振るのに合わせて耳が揺れる。真っ赤になって愛らしい声をあげるテイルラが、尾を握る度に後ろを締め付けるのは無意識だろうか。アダマスのすべてを搾り取るような適度な刺激は、アダマスから余裕を奪っていく。
「テイルラ、」
「んっ、ぅ?」
「しっかりしがみついておけ」
テイルラの尻を開くように持ち上げ、体を完全に預けさせる。そうしてアダマスはテイルラの体を、下からグンと突き上げる。瞬間、耳元で甘く高い声があがった。
「ひぅッ! ぅあッ! ぁっ、これ、おく、壊れ……っあ! んんんっ、ぐりぐぃしちゃ……」
何度も奥を突き上げ、ぱちゅんぱちゅんと音が上がる。テイルラの身が上下に揺れるのに合わせて、大きな耳が羽ばたくように触れる。それと同時に時折グラインド混ぜ前後左右に胎内を押してやると、素直なテイルラの耳は体といっしょにビクビク震えた。甘い快楽によがり、堪えるように背を丸める姿はたまらなくアダマスを駆り立てる。背中を支えてやりつつ、僅かにテイルラを仰向けに倒し、今度はガンガンと激しく責め立てるピストンを送ると、面白いくらいの嬌声があがる。
「あぅっ、あぁ、あッ! アダムッ、だめっ、そんなしちゃ……、イっちゃう、ッ!」
「イイな……、イイ声だ。最高に美しく、艶やかだ」
頭の芯まで甘い香りに満たされたアダマスに、その声は届かない。もはやアダマスの思考は柔らかく暖かい、性器を撫でる襞と圧迫する締め付けを持ったそれを堪能することにしかなかった。揺れる耳元に口を寄せ、吐息混じりの低い声で名前を呼び、「好きだ」と、「愛している」と囁く。その度に、テイルラの後孔は嬉しそうにキュンキュンとアダマスを悦ばせた。
目の前には、テイルラの白いうなじがある。浮き立った鎖骨は、どんな彫像よりも美しい。アダマスはそこに、熱い舌を這わす。
「ぁ……、あだ、む……ァんッ! っ、」
ここに思いきり歯を立てるだけで、この最高のスカーレットのすべてがアダマスのものになる。アダマスは、ほとんど本能的に口を開いていた。
「ま、って……ッ!」
「……っ! く、」
「ふぁッ! ――ッ、ぁ、」
びく、と腰が震える。思わず中に出してしまっていた。突如胎内に放たれた熱に、テイルラもまた達してしまったようで、僅かに肩を強張らせるとすぐにまた弛緩させアダマスに身を預けた。
二人の荒い呼吸だけが残る場で、アダマスはテイルラのうなじを撫でる。そこには、まだ綺麗なままの白い肌がそこにあった。
「……すまない、断りなくすべきでなかった」
「ぁ、いや、違うんだ。お前が嫌だったんじゃなくて、その……」
急に歯切れが悪くなったテイルラは、自らの腹筋で体を起こすと再度アダマスと肌を重ねる。温かな体温がそこにあり、アダマスも静かにテイルラを抱きしめその心地よさに身を寄せる。
「ほんとうに、オレでいいの?」
「当たり前だろう」
「でも……、でもオレは、混血だから、子ども作れないし、お前より先に死んじゃうかもしれないし……、それにスカーレットだから、時々こうやって不安定になっちゃって、さっきみたいにお前に酷いこと言っちゃうかもしれない。……それでもいい? オレでいいの?」
肩口に額を埋めたテイルラの表情は見えない。しかし、声は震えていた。そんなテイルラの頭を、アダマスはそっと撫でる。柔らかい髪質がとても気持ちがよかった。
「俺はな、テイルラ。そんなところもひっくるめて、お前を愛して愛し抜くと誓った。お前がいいんだ。お前を幸せにしたい、お前と幸せになりたいと、そう思っている」
「……ほんとう?」
「俺がこんな嘘をつけるほど器用だと思うか?」
「……思わない」
「そうだろう。……すぐに受け止めてくれとは言わない。お前が俺を疑うだけのことはしたからな。……だから、その時まで俺は待つ。お前もまた、俺がいいと思えるその日が来たら、その時こそ、いっしょになろう」
「…………」
テイルラが手紙の内容を受け入れ、父親の死の真相、母親の本当の思いを受け止めるにはまだ時間を要するだろう。つがいになるのは、それからでも遅くない。テイルラが本当の意味で愛を求めて、愛されることをアダマスに願うようになったら、その時こそつがいになろう。今度は薬の力など頼らずに。
ふと、テイルラは黙ってアダマスからほんの少し体を離す。向き合ったテイルラの瞳は、キラキラと美しく思わず目を奪われる。
「……なら、アダム。……キス、してよ」
「……キス?」
「お前、ぜんぜんしてくれないじゃん……オレずっと待ってるのに……」
星空を見つめていた視線を、アダマスは数度下げる。赤く、果実のように熟れた唇が寂しげに温もりを待っている。「キスくらいしたはず」と言いかけたアダマスは、そういえばと言葉を飲み込む。確かに、キスはした。だがそれらはすべて、唇以外のどこか。面と向かって、触れ合わせたことはない。
「……わかった。なら、目を閉じろ」
ここまでやることやっておいて、テイルラはまだキスもしていないと思っていたのか。ずっと、口寂しかったのだろう。テイルラは素直に瞳を閉じ、熱を待っている。アダマスはテイルラの顎に手を添え上向かせると、もう片方の手を後頭部へと回し、甘く熟れた赤い果実に、口を寄せる。
「っ、……ん、む……」
重ねあった熱の、更に深くへ。自ら舌を差し出すテイルラと、己の熱を絡み合い、食らいつくように口付けを深くする。そこまでのキスをされるとは思っていなかったのか、反射的に身を引こうとするテイルラの頭を押さえる。唾液を吸い、舌先で口内を蹂躙しつつ上顎を擽ると、テイルラの耳がびくびく震えるのが指先に伝わってきた。溢れるくぐもった声が堪らず、より追求したくなる。顎の手を離し、テイルラの耳の付け根を指の腹で挟み、くりくりとそこを弄るとキュンと後ろが締まる。自分でも締めてしまっていることが分かるのか、テイルラは羞恥で身を捩った。どこまでも、愛らしい男だ。
口の端から飲み込みきれなかった唾液が落ちる。それがどちらのものなのか、分からなくなった頃にテイルラはアダマスの胸を押した。甘い熱を惜しみつつ、口を解放してやると二人の間に糸を引いた唾液がポツリと落ちる。
「はっ、ぁ、んっ……お前……、は、セックスは激しくてキスはねちっこいの……?」
「情熱的と言え。……ふ、安心しろ、お前にだけだ」
息を切らしたテイルラは肩を上下させながら吐息混じりの声を出す。アダマスとて、誰にでもする訳ではない。むしろ、セックスも、ディープキスも、テイルラにしかしない。
深い呼吸をするテイルラが息を吸う度、受け入れたままの後孔が収縮する。身も心も乱され、淫らな姿を晒すテイルラが、より一層色っぽく月明かりに照らされた輪郭が艶やかに光る。自身が再び芯を持とうとしているのが、アダマスの肌に伝わる。
「……ところで、テイルラ。可能であれば、離れてほしい」
「…………」
さらに、テイルラのフェロモンが止まってくれていない。相変わらず鼻先を甘い香りが漂っている。このままでは、また堪えきれずテイルラを犯してしまう。一回だけという約束なのだ。さっさと抜いて、気を逸らさなければ体が。
「もっかい……」
「な、駄目だ! お前がツラいんだぞ!」
「だって……アダムとするのきもちいから欲しくなっちゃうんだよ……、別にいいよ、したくないなら。でも多分フェロモンは治まらないから、誰かに犯されちゃうかもしれな」
「一回だけだからな!」
つい誘いに乗ってしまったアダマスは、その瞬間テイルラが悪戯っぽく笑っていたことを知らない。そしてその笑みが、優しい、幸福に満ちたものに変わったことも。知っているのは、浮かぶ月と、ミラビリスの花たちだけ。
それは一人と一人の最後の夜であり、二人の最初の夜となった。
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