12 / 35

承・焦り

 千景は目いっぱい首を振り、答えると、太い腕が売り物の花を強引に奪い取った。 「やめてください! 花を返して!」  千景は花を取り戻そうと懸命に手を伸ばす。しかしその手は空を掴むばかりだ。目が見えない千景には花がどこにあるのか判らない。  急がないと花が枯れてしまう。そうなれば今日の収入がない。 「お願い、花を返してください」  千景は焦った。しかし千景が焦れば焦るほど、若侍たちは面白がるばかりだ。一向に返してくれない。 「お願い、返して!」  千景がいっそう腕を伸ばした矢先だった。体勢を崩し、地面に倒れ込んでしまった。  そんな千景を見ても彼らは笑うばかりだ。そして次の瞬間、千景は絶望に突き落とされた。

ともだちにシェアしよう!