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承・三十六計逃げるが勝ち
「なんだてめぇは!」
「やるのか。よし、おれが相手になってやろう」
一斉に鞘から刀を抜く音が聞こえる。ここで斬り合いになるのかと思えばとても悲しい。
助けに来てくれた男は果たして彼らに勝てる力量があるだろうか。――いや、人数が多い分、不利に決まっている。
かといって、千景は町人だ。千景は為す術なく身を縮めた。
斬り合いが始まるのかと思いきや。
「おい、立てるか? 逃げるぞ。三十六計逃げるに如 かず、だ」
地面に蹲る千景の耳に、助けに入った男がぼそりと呟いた。同時に千景の手が引かれる。
「逃げるのか!」
「腰抜け!」
後ろで若侍たちが罵っている。けれども男は気にすることなく走り続けた。
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