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承・侍は苦手

「やれやれ、ここまで来ればもういいだろう」  男に手を引かれ、逃げた先はどこだろう。木の葉がさやさやと揺れる音がする。  久しぶりに思いきり走ったことで、千景の心臓は大きく鼓動している。足は走っている時に挫いたのか、きりきりと痛んだ。 「手向かえ出来なくて悪かったな。おれはどうも剣術が苦手でな」  そう言った男は、しかし普段から鍛えているのか、千景のように息を切らしていなかった。  ふてぶてしく笑う男に、千景は首を傾げる。 「お侍さんなのに?」  剣術が苦手な侍なんて聞いたことがない。千景が尋ね返すと――。 「侍だって人間だ。苦手なものもある。……って、笑うなよそこ!」  侍は苦手だ。いつだって千景たち町人をないがしろにする。

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