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承・侍らしからぬ振る舞い
それなのに……。
この男からは嫌味というものを感じない。
「あ、いえ、ごめんなさい。そんなつもりではないんです」
毒気を抜かれた千景は、いつの間にか唇を緩めていたらしい。男に指摘され、千景は慌てて謝った。
「いいよ、本当のことだ。馬鹿にされるのも慣れた」
「ごめんなさい。そういう意味で笑ったんじゃないんです。ところでここはどこでしょう?」
耳を澄ましてもやはり木の葉が揺れる風の音しか聞こえない。
「さっきの道から少し角を曲がったところだが……お前、ひょっとして目が見えないのか?」
「はい」
「そうか、大変だな」
「生まれた時からなのでもう慣れました。それにぼくの目は不治の病ではありません。ハシリドコロという薬草と腕のいいお医者様のお力で治るそうです。ですからご心配はいりません」
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