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結び・線香花火

 伍  なんと美しい景色だろう。  蛍が夕闇を縫うようにして飛んでいる。そして自分の隣には好きな人がいて、この景色を見ている。  そんな他愛ないことが、千景にはとても嬉しかった。 「今年はこれで勘弁してくれ」  そう言って、桶と一緒に取り出したのは線香花火だ。  千景は虎次郎と初めて会ったその日に花火が見たいと言ったのを思い出した。  やがて虎次郎によってこよりの先に炎が灯る。  ぽうっと炎の花が静かに咲いた。  なんて綺麗なんだろう。 「……好き、です」  気がつけば、千景は虎次郎に想いを打ち明けていた。  それはきっと、自分の恋心と線香花火が似ていたからだ。  静かに燃ゆる千景の恋。

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