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鬼の松浦

小児外来の診察室の奥へ続く廊下の突き当たりに並ぶ三つの扉がトレーニングルームだ。 発達に伴った療育や俺たちのようにリハビリステーションではできないトレーニングをこの部屋ではする。 廊下の端にこじんまりとした受付カウンターがあり一先ず声をかけた。 「松浦先生に呼ばれて来ました。」 「もうすぐで出て来ると思いますので、座ってお待ち下さい。」 受付スタッフによると、今トレーニング中で少し時間がかかってるらしい。 別にこのまま出て来なくてもいいんだけど。 ソファーに座ってボーッとしていると、トレーニングルームの入口から泣き声が聞こえて来て、小学生の男の子が泣きながら出て来た。 その後ろから、手提げ鞄を持った松浦先生が顔を出した。 ……懐かし。 昔の俺と今目の前で号泣している男の子が被った。 「リク、もう終わったんだから泣き止みな。お母さんが来るまでココに座って休んでろ。今日もよく頑張ったな。お疲れさま。」 頭をポンポンと撫で優しい声で話かける松浦先生。 なんでその子隣に座らせるわけ? 居心地悪ぃって…。 「朔も慰めてやってよ。リクトレーニング中もずーっとビービー泣いてんだよ。な? 今自己導尿の特訓中なんだよ。なんかアドバイスしてあげてよ。やる気出そうな事とかさ。」 はあ?!俺に振るなって。 やる気出そうな事って難易度高くね? 「ったく。リクだっけ?お前何年生?」 「…ヒクッ……うっグズん、三年…ヒッ…せぃ…。」 三年で自己導尿ってある意味尊敬…。 小三の時はまだ親にやってもらってた俺にアドバイスされて嬉しいか? まぁコイツはそんな事知らねぇと思うけど…。 「…自己導尿の特訓最初はつれぇと思うけど、できるようになって損はねぇよ?」 「…にぃちゃんもした事あるの?」 えー、これ答えないといけないやつだよな…。 マジでついてねぇーよ…。 「…ある。」 なんかまたトレーニングルームに通う事になりそうだけど、俺はまた自己導尿の特訓じゃないとは思うけど…。 「…そうなんだ。でも僕…痛いから…ぅっ…やりたくないぃ…。」 あぁあ、また泣き出した。 「言っとくけどな今は嫌でも、親にずっとされるより楽になるよ?気持ち的な意味で!」 スビズビ鼻を啜るリクと話をしていると、スリッパの音が廊下に響いてリクのお母さんらしき人が迎えに来た。 「…すみません遅くなりました。松浦先生ありがとうございました。 リクもお疲れさま。帰ろうか。先生とお兄ちゃんにさよならして?」 「まっちゃん、ありがとうございました。にぃちゃんもバイバイ。」 お母さんの腕にしがみつき手を振るリクを見送った。

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