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話し合い
「待たせたな朔。ここで話すのもなんだし部屋に入りな。」
「…俺、今日はトレーニングする気ねぇよ?」
「とりあえず入りな?今日するしないは良いとして、前に話した自然排尿の件考えてくれたか?」
「……やっぱりその話か…。」
「俺が呼ぶって言ったらこの事だって分かるだろ?」
この部屋は主に俺やさっきのリクのように排泄系のトレーニングをする部屋だ。
ベッドやマットレスの他に手洗い場やシャワー室に広い個室トイレといった水まわりの他に排泄の時に使用する専用の医療器具も置いてある。
俺も約ニ年前まで週二で、トレーニングに通っていた部屋だ。
最初にこの部屋に来たのは、小四の時。
高学年になるにつれて、校外学習や宿泊学習が増えるため自己導尿の特訓をしに来た。
多分さっきのリクも似たような感じだろうと思う。
その後は、胃ろうの栄養剤の量の計算や胃ろうの交換とか。
そんで二年前までは、自己浣腸や洗腸の特訓。
今心配な事って言ったら自然排尿のトレーニングより、洗腸の指導を入れられないかって方なんだけど。
なんか言われたら知らばくれよう…。
そんでまっちゃんが言ってた自然排尿のトレーニングなんだけど、ずっと答えを出し渋っているのが正直な所。
自己導尿で排尿できてるのにわざわざ自然排尿にする必要があるのかってとこが俺的には納得いかない。
「朔、今年の春に尿路感染起こしたので何回目?」
「…五回?…六回…くらい?」
「八回目な…。同じ年に二回なった事もあるだろ。
尿路感染繰り返してたら合併症のリスクが上がるって話したよな?
そろそろマジでやばいからな?危機感持ちなよ。」
菌が何度も腎臓まで行くと腎不全を起こしたりして、最悪透析が必要になるらしい。
だから自然排尿のトレーニングをして、自己導尿の回数を減らす事でリスクを下げようって話し。
自然排尿ができても俺の場合は、自力で完全に尿を出し切る事は難しいらしい。
だけど今みたいに導尿処置をするよりかは、合併症のリスクが下がるから、まっちゃん的にはゴリ押しなんだよ。
「……俺はする気ねぇよ?また一からトレーニング始めるとか無理だわ。高校生になってまで紙パンツで生活とかキツいし…。」
「…トレーニングが完了するまで長期入院する事もできるぞ?高校の勉強も院内学級に切り替えて。」
「……そのトレーニングて、ぜってぇ痛てぇし。トレーニングで痛くなかった試しがねぇしな…。」
「痛いのが嫌だからやりたくないのか?相変わらずビビりだよなぁ。こんな金髪にしてイケてる面してんのに怖がりなのは変わんないんだな。」
豪快に笑うまっちゃんにイラッときたが、
そもそもデリケートゾーンを毎日処置してる俺って凄くね?
前に見せてもらった自然排尿用の器具は、尿道内を刺激するものだった。
要するに膀胱まで管を入れなくても、尿道の刺激で排尿感覚を覚えて、いずれはその刺激がなくても自力で排尿できるようになるのが、このトレーニングの目的。
「まぁ、すぐに返事くれんでもいいわ。今月の入院の予定は?」
「…来週…。」
「来週か、もうすぐじゃん。そん時にでも導尿の様子と洗腸の様子見せてな。
その後でまた話し合おう。」
「…何度話しても気持ち変わんねぇからな。俺トレーニングする気ねぇから。」
「…はいはい、最悪また泣かして頑張らすから覚悟しとけな。」
先生としてどうよ…ソレ。
泣かすって…だけどまっちゃんの場合マジで泣かしてくるからな…。
だけどまっちゃんのお陰で生活が楽になってんのも事実なんだ。
悔しいけど…。
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