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第14話

トレーニングルームの前に来て、お母さんにしがみついてやりたくないとシクシク泣き出すのもいつもの事だ。 朔の泣き声が聞こえたのか、松浦先生が廊下に顔を出した。 「朔おはよう。今日も頑張ろうな。」 「やだぁーー!しない!帰りたいぃ!」 お母さんの服にしがみつき離れない朔を軽々と抱えた松浦先生に必死で抵抗する。 「お母さん、その上着脱いで渡してやって下さい。」 お母さんのパーカーの袖を掴んで離さない朔にパーカーを脱いで手渡すとお母さんは、外来待合室の方に歩いて行った。 「…ゔうぅぅ……できないぃー!」 松浦先生の腕に抱かれ仰け反り泣く朔を連れトレーニングルームに入りベッドに座らせた。 「できないから練習してるんだろ?…はい、涙拭いて。準備するぞ。」 嗚咽を零しながらも、ベッドから降りトレーニングルームのロッカーに自分の持ち物をしまった朔は、ズボンとパンツも脱いでベッドに戻った。 「自己導尿に使う物を棚から持って来ないと。」 「…ヒッ……グズん、帰りたいぃ。」 「うん、帰りたいのは知ってるから。はい、ちゃんとトレー持って物品取って来て。」 この準備する段階からが松浦先生の指導方針だ。 ちゃんと自分の処置に必要な物を把握させて、用途や状態を考えて処置を行えるようにするためだ。 トレーニングには、その子の精神的苦痛が伴ってくるのは当然の事で、その為一人一人の心のケアやペースに合わせて割いている時間は長い。 棚から子供用のゴム手袋と、防水シート、汚物を入れる袋、個包装の消毒液に浸った脱脂綿、潤滑ジェル、それから一番細い導尿カテーテル。 ちゃんと一つ一つ把握して取って来た物品に松浦先生は、しっかりと褒めてやる。 この小さな成功の積み重ねが自信に繋がるからだ。 「ちゃんと覚えてたな。」 革張りの処置台に大きなバスタオルが敷いてあってそこで自己導尿の練習をする。 持って来た物品を医療用ワゴンに置いて、バスタオルの上に防水シートを広げて座った。 「病院に来る前に何時くらいに導尿したか覚えてるか?」 「八時…」 「もう三時間経ってるんだな。よし、ぼちぼち頑張ろうな。足立ててお膝開いてな。」 松浦先生に言われて、防水シートの上で膝を開き陰茎を隠してしまうTシャツも少し捲った。 これから自ら痛い事をしないといけないと思うと、止まっていたはずの涙が滲み始めてしまう。 「…ズピ……ぐすッ…」 「まだ泣かないよ。本当に痛い時にだけな?泣くのは。約束だろ?」 基本的にビビりで泣き虫な朔は、泣き過ぎてトレーニングが全然出来ず、以前こうして松浦先生と約束したのだ。 「…だって、だって…痛いのイヤなのに…。」 「嫌々言ってても終わらないからな?とりあえず今日は少しでも尿道内にカテーテル入れられたらお終いな。」 どこまでやれば終われるかを明確にしておくのも松浦先生のやり方だ。 特に朔のように前向きにトレーニングに打ち込めない子に効果的だった。 今日のノルマに少しはやる気が出たのか、ゴム手袋を着けてそろりそろりと陰茎の包皮を下げていった。 小さな陰茎の亀頭を完全に剥き出しの状態にすると、消毒液の浸った脱脂綿をそっと上に乗せちょんちょんと優しく拭いた。 「…拭き方はそれで良いんだったか?円を描くように消毒して割れ目も丁寧にだろ。」 「……分かってる。」 松浦先生に指摘されて、ムスッとしながらも左手で包皮を下ろした陰茎を支えて、右手で尿道口を拭き直した。 朔はこの液体が着いたスースーとした感覚になかなか慣れない。 カテーテルの封を切って、絞り出したジェルにカテーテルの先端を着けると、ゴクリと生唾を飲み込んだ。 ジェルの着いたカテーテルを陰茎の傍まで持ってきたが、そこからピタリと動きを止めてしまった。 そんな朔を松浦先生は黙って見守る。 本人の覚悟が決まるまで、じっくりと待つのだ。 「…まっちゃん…今日は止めたい。」 「…やめない。まだカテーテル入れてないだろ。 …なら、中に入れなくて良いから先に当てるだけはやってみな。」 かなり妥協した提案だ。 ここまで自己導尿への苦手意識が高い朔に今年中にできるようになるのかと僅かな不安が過ぎった。 この提案に朔は、カテーテルに再びジェルを多めに着けて、尿道口から少しズレた場所に当てた。 敏感な尿道口に直接当てるのは、怖い朔はよくこうやって慣らす。 本当なら清潔を保っていないといけないカテーテルを尿道口以外に当てるのはNGだが、まだ入れる事すらできないため松浦先生は大目に見ていた。 亀頭の部分にカテーテルが触れた事で、腰をビクリと揺らしまたしても動きが止まった。 「そのまま尿道口にちょんってして。」 「………(フルフル)」 首を小さく横に振って拒否を示す朔を再び待つことにした。 恐る恐るカテーテルを尿道口に近づけた朔は、割れ目にカテーテルが触れた瞬間にビリリと鋭い電流が走った感覚に咄嗟に手で亀頭を抑えた。 「朔、触らない。もう一回消毒からやり直し。」 「痛かったんだもん…。やっぱり俺自分でカテーテル入れるのできない。」 そんなこんなで五回目の今日も尿道口にカテーテルを入れる事はできなかった。 トレーニング終了の時間になり、ゴム手袋を嵌めた松浦先生に新たに開けたカテーテルを入れられ排尿した。 まだまだ先は長い朔のトレーニング。 次は少しでもカテーテルを入れられるようになるのか?

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