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第24話 過去編[完]
蒼side
俺は、今年高校三年生になり選択科目が増えたことで、昼から家に帰って来ることも度々あった。
昼前にトレーニングから帰って来た三男の朔は、母さんが昼ご飯を作っている間にソファーでウトウトと昼寝を始めていた。
「朔、ただいま。…眠たいのか?」
ソファーの横には点滴棒があり、ブランケットを顔まで被っている朔の胃ろうに繋がっている。
声をかけるが、『ん…』と短く答えただけでスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
「ご飯できたよ。蒼、先に着替えて来なさい。」
「うん。朔寝ちゃってるけど?」
「…ほんとだ。…三時にもう一回トレーニングに行かないと行けないんだけどなぁ。」
「…あれ?また行くの?」
「そう。今度は立位で導尿ができるように練習するからね。…朔、先にお昼ご飯食べて?
消化に時間がかかるんだから…ほら、起きて〜。」
母さんに揺すり起こされ、不機嫌に唸る朔をダイニングテーブルに連れて行った。
眠気まなこで昼ご飯の焼きそばをつつき出した。
松浦先生とトレーニングを始めて、最近ようやく自己導尿ができるようになったが、まだまだ慣れない事続きで家に帰って来ると緊張の糸がプツンと切れてしまうのか毎回寝てしまっていた。
着替えて朔の隣に座り焼きそばを食べながら聞いてみた。
「なぁ…朔。」
「ん?」
「導尿すんのって、やっぱり痛い?」
「…ん〜?ちんこに入れるのは、今はそんなに痛くないけど、おしっこの入口が痛いかなぁ。」
「…ちょっとぉ。ご飯中にその話は駄目!」
「ぁ、あぁ。悪ぃ。」
男兄弟だからか、食事中にも関わらず恥じらいもなく話してしまっていた。
と言うよりも、朔にとって導尿は生活の一部に過ぎないし、俺らも日常的に目にしている光景だから遠慮がなくなっているのかもしれない。
「…蒼も午後のトレーニング見に来る?」
「ぇ?!…見学させてくれるの?」
「うん、いいよ。蒼なら。…浬は嫌だけど。」
あ、そう…。
なんか朔は、浬を目の敵にしてるとこがあって。
浬も浬で、別に仲が悪い訳ではなさそうだが、突っかかって行ったり、からかっているのをよく目にする。
昼ご飯を食べて昼寝も済ませた朔は、調子が良さそうで俺を引き連れ車に乗り込んだ。
病院に着くと、待合室を抜け外来診察室の前を意気揚々と通りトレーニングルームまでやって来た。
俺も居るからか気合いが入っているのが分かり、その姿に少し笑える。
「まっちゃん、来たよ!」
「おぉ。待ってたよ。今度はお兄ちゃんも一緒なんだな。」
「うん!俺が導尿するの見学させてあげるんだ。」
「…ふはっ!そうか。見学させてあげるんだな。お兄ちゃんも中に入って?」
上から目線の朔に笑いつつもトレーニングルームに招かれた俺は、始めて入ったトレーニングルームにキョロキョロと辺りを見回した。
処置用のベッドに処置道具が置かれた棚。
その辺は病院って言う感じだが、部屋は全体的に淡いクリーム色で、可愛らしい動物のジョイントマットが床に敷き詰められていてアットホームな感じだ。
「朔、準備できたらトイレに物品持って行くぞ。」
「はーい。蒼もトイレに来て。」
「分かった。」
下を全部脱いだ朔は、ロッカーに荷物を押し込み銀のトレーに処置道具を棚から取って行く。
想像していた以上にしっかりした姿に正直驚いた。
朔についてトイレに入ると、三人入っているのに広々としたが設計になっていた。
便座の近くに用意された椅子に座り、朔が自己導尿するのを見学させてもらう。
「便器の前に肩幅に足を開いて立ってな。」
「…ん。」
「手順はいつもやってるのと同じ。午前中にしたの思い出してな。」
便座の右側に置かれた椅子に銀のトレーを置いて、足を僅かに開いた朔は、ゴム手袋を嵌めてから陰茎の皮を下ろした。
久しぶりに見る朔の亀頭は淡いピンク色をしていて、小ぶりのそれは同じ男だけど綺麗だと思った。
カテーテルにジェルを着けて、亀頭の辺りをしっかり持つと尿道にカテーテルの先端を入れた。
痛みを感じるのか、顔が強ばり腰がビクリと小さく震えた。
「…朔、大丈夫?」
「ん…平気…。」
腹側に持ち上げた陰茎を覗き込むようにしてゆっくりだがスムーズにカテーテルを奥へと進めていく。
トレーニングを始めた頃は、あんなに痛いのが嫌だとか、自分でするのは怖いから行きたくないと駄々を捏ねていたが、この半年で本当によく頑張ったと思う。
今見てるだけでも敏感な粘膜にカテーテルを通す行為に若干顔がひきっつてしまう程なのに。
それを朔は、日常的に繰り返していくのかと思うと尊敬する。
カテーテルの半分の長さが入った状態で、膀胱と尿道を真っ直ぐにする為に陰茎を足の方に下げた。
後は膀胱に入れれば導尿が完了だと松浦先生は言っている。
だが朔は、カテーテルを進める手をピタリと止めてしまった。
「…こっからが痛いんだよ……。」
「…そうなんだ。できそう?」
「…ん〜。……頑張る。」
ボソボソと喋る朔は、不安そうに陰茎を支え直した。
意を決しカテーテルを膀胱内に再び進め出した朔の肩がビクンと大きく揺れて、膀胱を貫通した為に痛みで『ッ、うぅぅ…』と声を小さく漏らした。
だがその瞬間カテーテルの中を尿が流れ出て便器の中に排出を始めた。
「すごいね朔!本当に自己導尿ができるようになったんだな。」
「えへへ…うん、まだ痛いの慣れないけど。」
「それは自己導尿を続けていく内に膀胱の筋肉も柔らかくなって来るから痛みは、今よりうんと減るよ。
朔よく頑張ったな。手順も完ぺきだったぞ。」
松浦先生にも褒められくすぐったそうに頬を染めた朔は、尿の排出を終えたカテーテルをスーと尿道から抜き取った。
それからの朔は、家でも自己導尿をする事が増えた。
たまにやりたくないとグズる事もまだまだあるけどね…。
学校でも個室トイレで頑張っているようだ。
上手くいかない時には、保健室を借りて座った状態で導尿したりもするみたい。
その為母さんが学校に行く頻度は、めっきり減っていった。
これから大きくなる朔が、どんな成長を見せてくれるのか長男としてとても楽しみだ。
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