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第32話

秦先生side 昼を過ぎ外来診療が終わった東雲先生と昼ご飯を食べて医局に戻り、朔の栄養剤注入までに雑務処理に追われていると、看護師の山添くんが声をかけて来た。 「秦先生、朔なんですけど…。」 「なぁに?またなんかやった?」 「…いぇ、そういう訳ではなくて…。」 山添くんの話しによると、毎回栄養剤の注入をするとベッドから動けない為事前に留置カテーテルを入れるのだが…。 その処置をさっきしてくれたようで、カテーテルを入れた時に尿道内が狭まって狭窄していたらしい。 朔本人は我慢しているのか、導尿する時に痛みがあっただろうと聞いても否定し続けているらしい。 変なところで我慢強くなってしまった朔。 昔はちょっとの事でも、怖いだの…痛いだの…と泣いていたのに。 「…朔、かなり調子崩れてますね。」 隣りのデスクでパソコンのキーボードをタイピングしていた東雲先生も難しい顔をして会話に入って来た。 「いやぁ…ほんとだよ。高校生になって自己判断で排泄処理してるからって大目に見てたけど、かなり厳しく指導入れないと駄目かなぁ。」 「秦先生が厳しくってあまり想像できないですね。ほわほわしてるイメージが強いんで。」 「分かります。いつも和やかな雰囲気ですもんね!」 東雲先生と山添くんが、共感し合う中かなり本気で治療計画を練っていた。 と言っても…まっちゃんが、入院中に自己導尿や洗腸の様子を見ると話していたから、朔の治療のヘルプにも呼んで活を入れてもらおうかな。 「それでカテーテルは挿入できたの?」 「はい。ちゃんと排尿もありました。」 「そっかそっか。狭窄してる箇所も知りたいし、早めに膀胱鏡検査入れた方がいいな。そろそろ栄養剤注入始めたいから様子見に行こうかな。」 朔の病室に入ると口元まで布団に包まり、スースーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。 ベッド柵に引っ掛けられた尿パックには、今まさに尿が流れ出ていてちゃんと排尿できている事が確認でき一安心した。 ゴソゴソとベッドの周りで動いているのに気にする様子もなくよく寝ていた。 …寝不足かな? 「朔、さ〜く。そろそろ起きなぁ。寝過ぎると夜寝られないよ。」 留置カテーテルを入れる時に一旦起こしたようだが、また寝入っている朔の肩を揺さぶり起こした。 「…んだよ。寝みぃのに。」 不機嫌そうな声を上げ肩を揺さぶる僕の手を振り払ってくる。 「栄養剤の注入始めたいんだけど。」 「…ぇ、もうすんの?」 「もうするよ。今1時半だよ。明日の休憩時間が短くていいなら、もう少し後でもいいけど?」 今から約20時間の栄養剤の注入後、4時間から6時間感覚を空けて、再度20時間の注入をする。 普段の栄養剤の注入よりも遥かに時間をかけて投与し、腸に多く吸収させるのが目的なので、ベッドに拘束される時間は必然的に長くなってしまう。 その為注入と注入の間に休憩を挟み気分転換ができるようにしていた。 「とりあえず高濃度の栄養剤注入は2日間だけだから頑張ろう? それとさ山添くんが、尿道が狭くなってたって言ってたんだけど、自己導尿した時どんな感じだった?違和感とかなかったの?」

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