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第33話
やっぱり秦先生に伝達してるよな。
どう誤魔化そうか…。
「…いつもと変わんないって。山添さんが大袈裟に言ってるだけだし。」
「…ふぅん。狭窄してる箇所にカテーテルが引っかかる感じとかなかった?」
「そんな所ない。」
これは本当だ。
カテーテルが引っかかると鋭い痛みが走るけど、管の入れにくさはあってもそんな箇所はなかった。
「全体的に狭まってるのかなぁ…。この話しはとりあえずいいよ。さっそく栄養剤の注入始めようかね。」
秦先生が栄養剤の準備を始めたから、ガウンタイプの病衣の前を寛げ胃ろうの蓋を開けた。
「…ふっ。なぁに?抵抗してるの?胃ろうは閉じてていいよ。」
「…胃ろうからでいいって。ケツに突っ込まれるの嫌なんだよ。」
「分かってるよ。注入始めたら慣れるまで傍に居るから頑張ろうなぁ。ほら、横向いて。」
胃ろうの蓋を閉じて病衣を直すところんと横向きに転がされた。
背中側にクッションを挟まれ、持参して来た抱き枕を抱きしめて足で挟むように体制を整えられる。
「…管入れたらバルーン膨らませる?」
「もちろん。いつもと一緒だよ。」
「バルーン膨らませるのやんないで…欲しい。」
「いやいや、それは難しいでしょ。バルーン膨らませてないと抜けやすくなるよ?力んだりしないなら膨らませないけど。」
「…とりあえず膨らませないで。」
「いいけど、無理そうだったら膨らませるからね。」
バルーンと言うのは、腸に挿入した管が抜けないように直腸内でバルーンを膨らませて留める物の事。
このバルーンを膨らませると、肛門付近に便がある感覚がずっとしていて余計に排便欲求が強くなるのだ。
「チューブ入れるよ〜。」
洗腸用のチューブよりも細いチューブが、肛門を通って直腸に侵入してきた。
数時間前に洗腸したお陰で肛門も柔らかくなっていて、そんなに圧迫感を感じなかった。
だけどS字結腸の辺りに来ると、クイックイッとチューブが動く感覚が顕著になってきた。
「…っはぁぁン……ふっうぅぅ……はふぅン…」
「偉いねぇ。そのまま力むの我慢しててなぁ。」
ようやくS字結腸を抜けると、またチューブが奥へと進んで行った。
俺の大腸は他の人と違って、下が開いたコの字にはなってない。
小腸がない為胃から肛門まで、緩い数字の3みたいに曲がっている。
直腸から栄養剤の注入をする時は、その『3』の中央の凹凸がだいたい臍の辺り。
そこにチューブが届くくらいまで深く挿入して行うのだ。
「お腹触るよ。」
グリグリと秦先生の手が臍を押さえチューブの位置を確かめるように触診してくる。
「うん、大丈夫そうだね。これから栄養剤流すけど、本当にバルーン膨らませなくていいのね?」
「…ん。膨らませるのはやだ。」
「分かった。じゃあ流しま〜す。」
緩い合図で始まった栄養剤の注入。
入れ始めは、特に何ともないけど、栄養剤が少しずつ大腸に溜まり始める10分辺りから排便感覚が襲ってくる。
秦先生もベッド脇に椅子を持って来て、パソコン作業を始めた。
俺の背後に居るから、当然なんだけど…捲られたガウンタイプの病衣から見えてるであろうチューブと丸出しの尻が恥ずかしかった。
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