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第36話

消灯時間になり病室の明かりもほんの僅かに落とされた。 だけどナースステーションは煌々と明かりが点いているから、暗くなった感じはしない。 ゴソゴソと体制を変えて寝ようと試みるが、肛門から機械に繋がるチューブが気になって仕方なかった。 「朔くん、寝られない?少し寝返り打つのやめようね。」 「…ん。」 また来た…。 今夜は男性看護師が居ないから、婦長さんが度々様子を見に来ていた。 寝返りを打つのをやめるとチューブが気持ち悪くて、何度も手を伸ばしてしまう。 だけどバルーンで腸内に留められたチューブを抜くことはできなくて、また寝返りを打って異物感を凌ぐしかなかった。 どれくらい経ったのか…うつらうつらと夢と現を行ったり来たりしている間に寝れていたようで、今日何回目かの排便欲求の波に起こされてしまった。 「…ぅう"……はぁぁン…、んん"ん"ー…ハァ…ああぁ…」 力むと腸壁が収縮して排便欲求が強くなるから、なるべく力まないようにしていたが、襲ってくる波は回を増すごとにデカくなっていて、抱き枕にしがみつき丸まった。 「あぁぁ…んん"ん"〜……っくはぁン……出したいぃ…」 耐え難い排便欲求にチューブを引っ張っていると、温かくて大きな手がやんわりとそれを制した。 俺の手を握りチューブから離したのは、消化器内科の横田先生だった。 久しぶりに会ったし聞きたいことは沢山あったけど、それどこれでは無い。 「ねぇ…またしんどくなって来たかな。」 「…ぁあ"あ"……ンんー……はっ…く、ふぅ……」 「よしよし、上手だよ。ゆーくり口から息吐くよ。」 「無理!…先生、チューブ取って。…ぅあ、ン…はぁぁ……しんどいぃ…」 「チューブ触らないよ。枕を抱えとこうね。腰摩ってるから少しずつ力抜いていくよ。」 横田先生に腰を摩られて少しだけ排便欲求が緩和された。 だけど喉元に熱い何かが這い上がってくる感じがして、ベッドからガバッと起き上がった。 チューブが肛門に入っているから座る事はできなくて、腕で身体を支えてうつ伏せのままえづいた。 「ッ、ぅえ"っ……」 「吐きそうだね…。ガーグルベースンあるから吐いちゃっても大丈夫だからね。」 「ん…。オェ…ぅ、おえぇ…ゲボッ!…かはっ……はぁぁン…うぁあ"……んん"ん"ん"!」 少量の嘔吐に胃がひくつき、強い排便感覚に襲われパニックになり強く力んで、チューブを思いっきり引っ張った。 直ぐに横田先生に抑えられたけど、肛門が限界まで拡がり僅かにチューブが抜け出た。 それと同時に温かい液体が尻を伝う感覚がした。 「…少し抜けちゃったね。入れ直すね。」 部屋の明かりをつけられ、バルーンの空気を一旦抜かれると肛門付近の筋肉が緩んで少し楽になった。 もうバルーン入れないで欲しいけど、今すでに注入された栄養剤が少しずつ漏れ出て行ってるのを感じて肛門がギュッと締まった。 「漏れて気持ち悪いけど、力抜いててねぇ。また肛門が苦しくなってくるよ。」 再び所定の位置までチューブを押し込まれてバルーンの空気を入れられる。 「…ふぅ……っうあぁ…キッツ……はぁぁ、っく…やめっ…」 腰を捩って逃げを打つが、横田先生は気にする様子もなく処置を終えた。 栄養剤が流れているのを確認してから、部屋を出て行くのかなと思っていたら、また明かりを落としてパイプ椅子に腰を下ろした。

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