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第38話
秦先生side
今朝いつも通り出勤すると、医局にある自分のデスクの後ろの席にダンボールが置いてあるのに気がついた。
「おはようこざいます。秦先生。」
「ぁ…東雲先生、おはようこざいます。」
東雲先生も出勤して来て、早速パソコンを立ち上げた。
「東雲先生、今日からでしたっけ?研修医。」
「そうでしたね…。慌ただしくて忘れるところでした。…ぁ、また夕陽点滴抜いてたのか。すみません。先に夕陽の様子見てきます。」
「は〜い。」
カルテを見てから足早に医局を出て行った東雲先生と入れ違うように若い青年2人が医局に顔を出した。
「秦先生!今日から小児科に研修に来ました。風見です。宜しくお願いします。」
朝から元気な挨拶をしてくれた風見先生は、小児科を希望するドクターらしく、ようやく本命の科に来ることができたと話してくれた。
「こちらこそ、宜しくねぇ。…ぇと、君は誰が指導医なの?」
「真鍋と言います。東雲先生の下につく予定なのですが…。」
「あぁ…東雲先生かぁ。今受け持ちの子の様子を見に行ってるから、デスクで待ってるといいよ。
風見先生さっそくラウンド行こうか。タブレットでカルテを見ながら説明するから、子供たちの挨拶も兼ねて一緒に行くよ。」
「はい!お願いします。」
初々しくはつらつとした風見先生は、子供たちともすぐに打ち解け『後で遊ぼう』と約束する子もいた。
「本当に子供が好きなんだねぇ。」
「そうなんですよ!保育士が夢だったんですけど、……ぁ、いぇ…子供って可愛いですからね。」
何かを言いかけたが、お茶を濁すように笑った彼にそれ以上追及する事はできなかった。
「次に診察に行く子は、ナースステーションの奥の部屋にいるからね。この子…瀬咲 朔くんね。カルテに目を通しといて。」
「はい。ぁ…この子高校生なんですね〜。」
「そうだよ。治療真っ只中で気が立ってると思うけど、怖がりなのを隠す為の強がりでもあるから、よく見ててあげてね。」
「分かりました!…へぇ、普段は自己導尿とかもしてるんですね。すごいなぁ。」
「排泄障害があるからね。今は栄養剤の注入をしている所だよ。」
朔の病室に来ると入口に背を向けてテレビを見ていた。
扉は開け放たれているけど、来室を伝えるためにノックをした。
コンコン…
「入るよ〜。朔、おはよう。」
またチューブが気になっているのか、布団の中でもぞもぞと忙しなく動いていて落ち着かないようだった。
「朔、新しい先生来てるから紹介するねぇ。」
「…はぁん?…ッ…ぅ、かってにしてろ…よ。」
「研修医の風見先生ね。これから僕に着いて診察とか処置にも加わってもらうからね。」
「風見です。朔くん、宜しくね。」
「…っ……ふぅ…ぅゔ…。…あっそ。…ッはぁ……ン…」
また排便欲求の波が来てるようで、辛そうな呼吸を繰り返していた。
「朔…声我慢しなくていいから、お口開けて力抜こうか。」
風見先生が居て恥ずかしいのか、口を閉じて食い縛ろうとする朔に声をかけて、布団を捲り背中を撫でた。
「…もう終わり、たいっ……あ"ぁぁ……ふンん"ん"ー!」
「もう少しだからね。力まない力まない。」
「無理に、決まって…だろッ!…はっ…ん、ぅげッ…ぉぇ…うっはぁ…げぼっ!」
「風見先生ここ変わってもらえるかなぁ…。」
吐きそうかな…。
何度もえづき始めた朔。
風見先生に背中を擦るのを変わってもらいガーグルベースンを口許にあてがった。
排便欲求も強いのに吐き気も加わってしまい涙が滲んできていた。
後少しで注入は終わりそうなんだけど、結構キツそうだ。
「…ぅげぇ!ゲボッ!…はぁぁ…はぁ…しんどいぃ…」
「しんどいねぇ。夜も大変だったね。偉かったね。」
カルテには、排便欲求と嘔吐で、軽いパニックになりチューブを抜いたと書いてあった。
それでも後半は、横田先生が着いてくれていたお陰で寝られたようで安心した。
やっぱり横田先生に頼んでいて正解だったな。
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