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第34話 世界一の幸せ者*
ベッドがかすかな軋みを上げ、フェリックスがベッドに乗り上げてきた。
目の前に翠緑の瞳があって、まっすぐにマコトを見下ろしている。
心臓の高鳴りが止まらない。
爆発してしまいそうだ。
「オレも、ずっとマコトとしたかった」
「ひゃっ」
屈んだ彼が、マコトの頬に軽いキスを落とした。
「マコト、身体は大丈夫か?」
「だからもう元気ですって!」
なおも身体を気遣う彼に、ぷっくり頬を膨らませる。
だが、それで緊張が和らいだ。
「先輩と……セックスをしても大丈夫です。だから、抱いてください」
柔らかく微笑み、ねだった。
見下ろす彼の喉仏が上下し、こくりと喉が鳴った。
「ああ、わかった」
彼の手が伸びてきて、マコトの眼鏡を外した。ことりとベッド脇のサイドテーブルに置かれる。
それから、マコトの衣服に触れる。王城の病室だか客室で療養させられていたマコトは、真っ白なパジャマを着せられていた。
彼の指が、ボタンを一つ一つ外していった。
マコトの肌が露わになった。
まったく筋肉のついていない、ひょろりと細い身体だ。
「綺麗な身体だ」
囁き、マコトの鎖骨の辺りにキスを落とした。
心臓の鼓動が、彼の唇に伝わってしまいそうだ。
「き、綺麗なんかじゃないです……!」
自分の身体は貧相だとしか思ったことがない。
綺麗だなんて言われるのは初めてだ。
「そうか? シミ一つない、綺麗な肌だ」
彼はマコトの肌を撫でて言った。
夢に思い描いていたよりも、優しい手つきだ。
一つ、二つ。彼は胸元にさらにキスを落とす。
三つ、四つ。キスの位置はだんだんと下がっていく……。
「ひゃっ」
胸の飾りに落とされた接吻けに、声が出た。
桃色の尖りが、唇に挟まれ柔く食まれる。
「可愛い声」
くふりと彼が笑みを零した。
もっと声を聞かせてほしいとばかりに、敏感な先端を何度も唇で食む。
「ひゃっ、あ……っ!」
どうしても声が出てしまう。それが無性に恥ずかしかった。
「あっ!」
彼が口を開け、突き出された舌がべろりと尖りを舐め上げた。
瞬間、確かに感じた。気持ちがいいと。
「あっ、あ、あぁ……っ!」
ぺろぺろと何度も胸の尖りを舐められ、あらぬ声が出てしまう。
自分がこんな艶っぽい声を出せるとは、思ってもみなかった。
舐められて、吸われて……甘噛みをされて。
「あっ、ああっ! あ……ッ!」
マコトの喉から喘ぎ声が迸る。
下腹の辺りに熱が溜まっていく。自身が兆し始めたのを自覚する。
そのことに彼も気がついた。
「マコト、ここ大きくなってるな」
パジャマの上から彼の手が軽く撫でる。
それだけで強い刺激が身体を駆け抜ける。
「あっ!」
「マコトは本当に可愛いな。下も脱がせても?」
「は、はい……」
問いかけに、恥じらいながら頷いた。
パジャマの下がそっと脱がされ、次に下着に手をかけられた。
下着がめくれ、マコトの下肢が露わになる。マコトの中心は頭を擡げて蜜を垂らしていた。
見られるのが恥ずかしくて、耳まで真っ赤になる。
「ここも可愛いな」
彼の指先が、マコトの一番敏感な場所に直接触れる。
吐息が漏れる。
「あっ」
「マコトは、ここを弄って一人でえっちする?」
彼の問いに、頬が熱くなる。
性欲が復活してからは、たまにすることもあった。
男同士でも繋がれるということは知っていたが、上手く想像ができなかった。だから全身を撫でられたり、性器に触れられる想像をして自分を慰めていた。
「は……はい」
「へえ、こんな風に?」
彼の手が緩くマコト自身を握り込む。
穏やかな手つきで、扱き始めた。
「あっ、あぁっ、先輩……っ!」
「気持ちいい?」
問われて、こくこくと頷く。
彼の手の中で蜜の分泌量は増し、くちゅくちゅと音を立てる。
くちゅくちゅくちゅ、くちゅり。
淫靡な音を立て、手の中で硬くなっていく。
「あっ、あぁっ、ン……っ!」
「可愛い声、もっと聞かせて」
彼はマコトのモノを扱くスピードを速める。
「あッ! あぁッ! あ、あっ、あぁ……ッ! 先輩、ダメ、イっちゃう……ッ!」
愛しい彼の手の中で高められ、絶頂まであっという間に昇りつめてしまう。
「イく……っ!」
青臭い白濁を手の中に放ってしまった。
「先輩、ごめんなさい……手、汚してしまって」
胸を上下させながら謝った。
気がつけば汗が滲んできている。
「マコトがイクところ、すごく可愛かった」
笑いながら、彼は手の中の白濁をぺろりと舐めた。
「あっ!」
見ている前で、彼は白濁を飲み込んでしまった。
「だ、ダメです先輩! そんな汚いの飲んじゃ!」
「マコトから出てきたものだから汚くないさ」
「汚いです、今すぐ吐き出してください!」
「吐き出すのは汚くないのか?」
マコトはぷくっと頬を膨らませて睨みつけ、彼はその視線を愛おしそうに受け止める。
怒りはいつまでも持続せず、マコトは破顔した。
「ふふ、ふふふふ……!」
「あははは」
フェリックスとマコトは、笑い合った。
笑いが収まると、彼はまっすぐにマコトを見つめた。
「マコトをもっと知りたい。……身体の奥まで」
囁きと共に、彼の手がするりと伸びてきてマコトの尻を撫でた。
撫でられた箇所が熱い。
撫でていただけの手が尻を揉みしだくようになり、割れ目の奥へと指が潜っていく。
「……っ」
入口に指が触れた瞬間、息を呑んだ。
「いいか?」
奥へ入ってもいいか、と指がとんと入口を叩く。
上手く想像できなかった先が、感覚と共に具体性を伴う。
後ろを割り開かれ、奥に彼を受け入れるのだ。
「もちろんです」
はにかみながら、頷いた。
「わかった。優しくする」
一旦手が離れていったかと思うと、マコトは両足を大きく開脚させられた。
恥ずかしい体勢だが、彼を受け入れるために必要なことだ。
大きく開き、晒された後孔に彼の指が触れる。くちゅりと指の先端が沈み込んだ。
「ん……っ」
「痛くないか?」
「大丈夫です」
激しい痛みが襲うのではないかと思っていたが、予想に反してすんなりと指は沈んだ。
ゆっくり、指が中を押し拡げていく。
「深呼吸して」
「はい」
深く息を吸って、吐いて。
すると身体が緩んでいくようだった。
指が深くまで沈み込んでいく。
「ちょっと時間がかかるから、リラックスしててくれ」
「はい」
彼と一つになるためならば、時間なんていくらかかってもいい。
彼に言われたように深呼吸をしながら、されるがままに身を任せた。
彼は丁寧に愛撫を始めた。
「ン、あっ、あぁ……っ!」
どれほど時間が経っただろうか。
マコトの中を探る指は複数に増えている。増えた圧迫感が苦しいはずなのに、甘い声が出てしまっている。
途中でローションのようなぬるぬるとした液体を塗られ、指を動かされる度くちゅくちゅと音がしてしまっている。
「あンっ、ぅ、先輩……っ!」
マコト自身が、再び兆して頭を擡げている。
ナカを押し拡げる刺激に感じている証だ。
自身が彼の目と鼻の先でそそり勃っているのが恥ずかしい。じっと見つめる熱っぽい視線を感じるから、余計に。
ぬちゅりと指が引き抜かれた。
内側を埋めていたものを惜しんで、孔がはくはくと収縮する。
「先輩……」
ぼんやりと彼を呼んだ。
衣擦れの音がする。顔を上げると、彼が脱いでいるのが視界に入った。
逞しい胸板。
同じくギルド職員をしているはずなのに、自分の裸体とは大違いだ。
日頃から鍛えているのだろうか。
そして、下も躊躇なく脱いだ。
彼自身が露わになった。色も太さも、自分のモノとは違う。
雄々しいそれにごくりと生唾を呑んだ。
「マコト……」
ギシリ。
ベッドが微かに軋み、彼がマコトに覆い被さる。
マコトの後ろの入口に、彼のモノが充てがわれた。大きなそれの脈動が伝わってくる。
これから、これを受け入れるのだ。心臓の高鳴りが止まらない。
「挿入れるぞ」
「はい、来てください」
彼の目を見据え、しっかりと頷いた。
彼も頷き返し――剛直を沈めた。
「……っ!」
圧迫感に息が止まった。
生理的な涙が、頬を伝い落ちる。
「大丈夫かマコト。さっきと同じように、深呼吸をするんだ」
懸命に息を吸い、吐く。
先ほどのように、身体を緩めることを意識する。だんだんと身体が楽になっていく気がした。
「楽になるまで待ってるからな」
彼の手がマコトの黒髪を撫でる。優しい手つきに、強張りが解けていくようだった。
圧迫感はまだ苦しい。けれど、もっと一つになりたい。
「……大丈夫です。先輩、動いてください」
「いいのか?」
「はい……!」
彼が再び腰を動かす。
圧迫感が奥へとゆっくり進んでいく。
「全部、挿入った……」
深呼吸をして耐えていると、彼が呟いた。
全部挿入ったなんて、本当だろうか。実感がなかった。
「ほら、マコトのここまで挿入ってるんだ」
彼がマコトのお腹を優しく撫でた。
撫でられた肌の下に、彼自身がある。一番奥まで、繋がったのだ。
内側に彼の体温を感じる。それが嬉しかった。
「動くぞ」
「はい、先輩の好きなようにしてください」
「……っ!」
頷くと、何故だか彼は動揺したような様子を見せた。
「こらマコト、オレが一生懸命に理性で抑えようとしているんだから煽るんじゃない」
「ふえ?」
「あんまり可愛くすると、優しくできないぞってことだよ」
マコトを見下ろす彼の額には、汗が滲んでいた。
優しい視線の奥に、情欲を感じてゾクリとする。
いつも穏やかな彼にも、欲がある。そしてその欲はマコトによって煽られ、興奮している。そのことを如実に感じた。
マコトの身体をゾクリと震わせたのは恐怖ではない。期待だった――
剛直がゆっくりと引き抜かれ、ぬちゅりと湿った音を立てる。
それから、またゆっくりと奥へ進んでくる。
「ん……っ」
彼のモノが動いているのを内側で感じる。
マコトは苦しさを逃がすように息を吐く。
「気持ちよくない?」
「ちょっと、苦しいです……」
「わかった、じゃあマコトはこっちの感覚に集中してて」
「へ?」
彼が屈みこんだかと思うと、べろりとマコトの胸の尖りを舐めた。
「ひゃあ……っ!」
「乳首弄られて、気持ちよさそうだったもんね」
恥ずかしいけれど、乳首で感じていたのは事実だ。
緩やかなストロークを続けながら、彼はマコトの乳首を弄り始めた。
尖りを擽るように舐めたり、舌先で圧したり。丁寧に舌で愛撫していく。
「ひゃっ、あっ、あぁ……っ!」
先ほどのように、マコトの口から甘い声が漏れ始める。
舌で弄られるたび、胸を反らして善がる。
その様を見つめている翠緑の瞳が、「可愛いぞ」と言っているように目を細めた。
「あっ、先輩っ、あぁ……ッ!」
舐められた乳首が、湿って淫靡に光っている。
彼によってえっちになってしまっている。えっちな姿を見られてしまっている。その事実が身体を疼かせる。
「あンっ、先輩、あッ! あっ、先輩……っ!」
くちゅくちゅと抽送の音が響いている。
胸を弄られて感じているのか、抽送に感じているのかよくわからなくなっていく。
「あっ、せんぱい、せんぱい……っ!」
ぱちゅんぱちゅんと腰を打ちつけられる。その度に嬌声が迸る。
「マコト……っ。フェリックスって呼んでくれ」
呟いた彼の顔から、汗が伝い落ちた。
気がつけば二人とも汗だくで、交合に夢中になっていた。
マコトの腰も無意識に揺らめいて、二人の腰つきを合わせようとしている。
「フェリックス……ッ! あッ、あぁ、フェリックス……ッ!」
「マコト、愛してるッ!」
彼はマコトへの愛を、熱として最奥に打ちつける。
気持ちがいい。剛直が肉壁を擦り上げる感覚が、はっきりと快感として感じ取れる。
「あッ、あっ、あぁッ! フェリックスっ、フェリックスぅ……ッ!」
喉が嗄れそうなほど叫んだ。
抽送も激しさを増し――――
「――――ッ!!」
マコトの頭の中は、真っ白になった。
絶頂に達したのだと、遅れて理解した。
「く……ッ!」
内側に精が流れ込んでくるのを感じる。精が放たれたのだ。
彼と一つになった証のようで、嬉しかった。
髪を梳く感触を感じた。
達して、束の間うとうとしてしまったようだ。心地よい倦怠感が身体を包み込んでいる。
目を開けると、フェリックスがマコトの髪を梳いていた。
「ごめん、無理させたか?」
身体はさらりとしていた。
まぐわった汚れが残っているのを感じない、きっと彼が身体を綺麗にしてくれたのだろう。
「いえ……今まで生きてきた中で一番気持ちよかったです」
マコトはにへらと崩れた笑みを向けた。
「……っ。いちいち煽るようなこと言うのって、天然?」
「へ?」
「天然だよな、わかってた」
彼が何のことを言っているのかわからず、きょとんとする。
「なんでもない、マコトが可愛すぎるってことだよ」
「ふえ……!?」
可愛すぎるの一言だけで、顔が真っ赤になってしまう。
それはきっと、可愛いとどんなことをされることになるか知ったからだろう。続けてまた抱かれてしまうのだろうか。
「大丈夫、マコトがどんなに可愛くても今日はもう無理をさせないから」
「今日は……?」
「そりゃ、マコトの体力が回復したら……たくさん楽しもうな」
彼はおどけてウィンクをする。
ウィンクの意味することに、ドギマギと心臓が高鳴る。
「ひゃ、ひゃい……!」
口から出た返事は、変な声になってしまった。
「可愛い」
そんなマコトのことも、彼は可愛いと囁いてくれる。
ああ、なんて――――幸せなのだろう。
(僕は世界一の幸せ者だ……!)
強く、実感したのだった。
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