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人は見かけによらない
翌朝、俺が目を覚ました時、既に着替えを済ませて身なりを整えた閑さんはキッチンにいた。
「おはよぉ、伊吹。身体は大丈夫?」
「おはよう、ございます……大丈夫……です」
もうすぐ朝ごはんできるから座ってていいよー、と言う閑さんは卵をかき混ぜる。卵焼きを作っているらしい。
「なんか、閑さんって……見かけによらない……ですよね」
「えー? それ どーいう意味ィ?」
「細身なのに力あったり、チャラそうなくせに料理できたり……」
淡白そうなのに意外と性欲強かったり。そう言いかけてはっとなる。何言おうとしてるんだ、俺。
俺の言葉が不自然に切れたことには気付かなかったらしい、閑さんはハハッと笑う。
「中々言うなァ、伊吹」
温まったフライパンに流し込まれた溶き卵がジュワアと音を立てた。手際良く形になっていくそれは、俺の好きな甘い卵焼きの匂いを漂わせる。お腹が小さく鳴いた。
痛い腰をかばいながらソファーに向かう。少しでもテーブルの上を片付けなくては。
乱雑に置かれた週刊誌や、ファッション誌。美容師志望なだけあって、その手のものはとても多い。下手したら3年以上前のとかもある。
「温故知新とはよく言ったものだよねェ」と、前に閑さんが言っていた。
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