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貴方の言葉

「社会人のくせにあんな長い髪、よく雇ってもらえたよねェ、あの人」  俺は美容師志望だから通るけどさ、と言ってしずかさんは閑さんは机の上のヘアピンに手を伸ばす。それは、俺ので。 「ほら、伊吹も。留めてあげるから、もうちょっとこっちに顔出して」 「え……」 「お前、その前髪短くするの嫌なんでしょ。目ェ悪くなるから、勉強中だけじゃなくて普段から付けるべきだけどねェ」  そう言って、俺の頬を優しく引き寄せると、閑さんは馴れた手つきで俺にヘアピンをつけてくれた。 「……そんなことしたら、伸ばす意味ないじゃないですか」  それでも大人しく顔を動かさない俺に、閑さんはクスクスと笑いながら「お前ね……」と言った。 「広い視界が落ち着かないとか突然言い出して、今じゃこんなに長くなったけど……本当にそんな理由だったわけ?」 「……そうですよ、あと、人にあまり顔を見られたくないだけです」 「ふーん? そんな綺麗な顔を、ねェ?」  クスクスと笑いながらそう言われて、ドキリとする。まさか、この人に限って覚えてるなんてことはないだろうけれど。  この人は、俺が今まで逢った人達の中で一番自分の発言に責任を持たない人だから。  自分が何を言ったかなんて、いちいち覚えてないんだ。  『伊吹の綺麗な顔、好きだなァ。誰にも──…………』  たとえそれが、どんなに相手の心に残ったとしても。

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