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残響

 いつ言われたのかは、もうあまりよく覚えていない。  ただ、高校に入る前だっていうのは、明確に覚えてる。  それは、今でも俺の耳の奥で響いていて、俺の心を掻き乱す。傍若無人に、俺を弄ぶ。 「こんな恋ならしたくなかった」  最早、恋かすらわからないようなこんなドロドロの感情を、知りたくなかった。 「真澄、俺、どうしたらいいと思う……?」  向かいに腰掛けた真澄は、困り果てた顔をした。そりゃあそうだ、幼なじみの、ましてや男どうしの恋愛事情なんか相談されたって、幾らそういうのが好きでも困るだろう。 「俺、閑さんが何を思ってこんなことしてくるのか、もうずっと分からなくて」 「伊吹…」  ただそれでも、口は止まらない。真澄が困るとわかっていても、それ止まらない。 「怖い、んだ」  わからなくて、見えなくて、怖い。  あの人を理解しようなんて、人間にできる芸当じゃないのかもしれないけど。  相手が見えないというのは、こんなにも不安なものか。  姿は見えても、ひた隠しにされた心は一切の隙すら見せず、綺麗に隠れたまま。 「こんな恋なら、したくなかった」  二度目のそのつぶやきの時には、とうとうポタリ、涙が零れた。  それは後から後から、ボロボロととどめなく溢れて、止まらない。  長い前髪に雫が触れて、しっとりと濡れる。  長い、長い前髪。頬までかかるそれは邪魔で。広い視野が落ち着かないなんて、ただの言い訳で。 「閑さんは……俺の顔、綺麗、だ、って……言ってくれ、て………っ」 『伊吹の綺麗な顔、好きだなァ。誰にも見せたくない。……あー、でも自慢したいかも、可愛いだろーって』  珍しく邪気の無い笑顔で、俺にそう言ってくれた。あの時の言葉が忘れられなくて。  数多ある彼の独占欲の、僅か一部でも俺がその中には入れたことが嬉しくて。 『それにしても前髪伸びたねェ、俺が切ってやろうか』  彼はもう、そんなこと忘れてしまったようだけど。 「おれ、は、好き、だけど……閑さんは……っ違うから」  ひぐ、と嗚咽が漏れて、息も上手く吸えない。苦しくて、このまま眠ってしまいたかった。

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