80 / 103
そして話は2話前へ
眠ることは、俺にとって唯一の逃げ道であり、それと同時に唯一の酷道でもある。
「閑さんをどう思ってるか、訊いてもいい?」
安心させるように、俺の手を握りながらそう問いかける真澄に、俺はゆっくり口を開いた。
「……傍若無人で、無責任で、大嫌いで、器用な人で、独占欲が強くて、…………かっこよくて、大好き……だけど、こんな関係にはなりたくなかった」
「終わらせたい?」
「……もう会えなくなるのは、嫌だ」
「そっか」
それを聞ければ、まあ──何とかなるかな。
真澄はそう言って、スマフォを手にした。人と話す時、それを取り出すことは滅多にない真澄には珍しいことだ。
「伊吹」
操作を終えたらしく、顔をあげた真澄はこちらへ手を差し出して、
「手伝ってあげる。スマホ貸して?」
と言った。
「……何すんの」
「閑さん、お灸据えてあげるよ」
ニコッと、いい笑顔で言う。背筋に悪寒が走った。
「………怖……真澄なら、あの人にも敵うのかもね…」
「この間、人間に為せることじゃないって言ってなかったっけ」
「……」
覚えてたのか。
「……気の所為、じゃない?」
「ふーん?」
俺からスマホを受け取ると、真澄は素早く操作を済ませ、俺に返してきた。
「この後、閑さんからLINEとか、メッセージとか来ても、全部無視してね。私がうまく立ち回るために」
「………何する気なの」
「内緒」
いい笑顔でそんなふうに言うのやめて欲しい。怖すぎる。
「……眠るときは、何も考えなくていいけど……同時に、何も考えられないんだよな」
「ん? そうだね、そうだけど、どうしたの?」
「……思っただけ」
ともだちにシェアしよう!