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そして話は2話前へ

 眠ることは、俺にとって唯一の逃げ道であり、それと同時に唯一の酷道でもある。 「閑さんをどう思ってるか、訊いてもいい?」  安心させるように、俺の手を握りながらそう問いかける真澄に、俺はゆっくり口を開いた。 「……傍若無人で、無責任で、大嫌いで、器用な人で、独占欲が強くて、…………かっこよくて、大好き……だけど、こんな関係にはなりたくなかった」 「終わらせたい?」 「……もう会えなくなるのは、嫌だ」 「そっか」  それを聞ければ、まあ──何とかなるかな。  真澄はそう言って、スマフォを手にした。人と話す時、それを取り出すことは滅多にない真澄には珍しいことだ。 「伊吹」  操作を終えたらしく、顔をあげた真澄はこちらへ手を差し出して、 「手伝ってあげる。スマホ貸して?」  と言った。 「……何すんの」 「閑さん、お灸据えてあげるよ」  ニコッと、いい笑顔で言う。背筋に悪寒が走った。 「………怖……真澄なら、あの人にも敵うのかもね…」 「この間、人間に為せることじゃないって言ってなかったっけ」 「……」 覚えてたのか。 「……気の所為、じゃない?」 「ふーん?」  俺からスマホを受け取ると、真澄は素早く操作を済ませ、俺に返してきた。 「この後、閑さんからLINEとか、メッセージとか来ても、全部無視してね。私がうまく立ち回るために」 「………何する気なの」 「内緒」  いい笑顔でそんなふうに言うのやめて欲しい。怖すぎる。 「……眠るときは、何も考えなくていいけど……同時に、何も考えられないんだよな」 「ん? そうだね、そうだけど、どうしたの?」 「……思っただけ」

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