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切り札

〈真澄side〉 「私はもう少し、ここですることがあるから。伊吹は先に帰ってて?」 「……わかった」  あの時の伊吹の疑い深気な顔ったらなかった。『何する気』って、目がずっと訴えてきて。私はそれに気付かないふりしてニコニコして手を振っていた。 「……お金」 「ん、……って、伊吹? お金多いよ」  伊吹が差し出したお金は二人分のドリンクバーとサイドメニューの料金。確かに私と伊吹、二人とも頼んだけど。 「……相談料」 「高くない?」  幾らなんでもそれは、ねぇ?  すると伊吹はそっぽを向いて、ぼそぼそとこう言った。 「……どうせこれからあの人と話すんだろ」  安いくらい、と。そしてそのまま足早に出ていこうとした。 「……かぁっこいー」  あまり鳴らない口笛で小さく煽ると、聴こえたのかは知らないけど、「ばか」と、マフラーの奥から少し照れた顔で言って、今度こそ出ていった。  ……可愛かった。 「……さぁーてと」  かっこよくて可愛い幼馴染みの為にも、さっきの確認しないとね。  スマホにイヤホンを挿して、ついさっき録音した音声を確認する。 「……うーん、良好じゃん。さっすが、性能いいなぁ」  完璧。これでまたひとつ、切り札が増えた。 「あんまりふざけた覚悟で私から幼馴染みを奪ったりしたら、痛い目見ちゃいますよ」  その緩んだアタマのネジ、締め直してあげますね。シズカさん。

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