82 / 103

眼中

 ──カランカラン…… 「いらっしゃいませ」  お一人様ですか?  あ、いや。待ち合わせです。  そう言ってこちらに歩いてくる男の人。  意外も意外だけど、時間は守る人らしい。  キョロキョロとしながら進んでいくその人が、私の横を通り過ぎようとした時、ようやく私は口を開く。 「こんにちは、一年 閑さん。お待ちしていました」 「んー……? 誰ェ?」 「藤波高等学校2年、生徒会会計の嗣川 真澄です」 「マスミちゃん?」  ああ、そう言えば──いたかも。  言いながら訝しげに眉根を寄せる閑さん。そりゃあそうだろう。 「伊吹からのLINE」  にっこり笑って、言ってやる。伊吹は何度もこれ以上に酷く心を裏切られてるんだから。 「失礼を承知ながら私が送らせていただいたものなので、ここに伊吹はいませんよ」 「ふぅん……」  一気に萎えたようにして踵を返そうとする閑さん。 「…どこ行くんですか?」 「伊吹いないなら帰るよー。君のことはどうでもいいから」  気だるげな目でそう言う閑さん。ああ、その目。そっくりですね。  その目の中に―伊吹は貴方しか見えないのと同じように、貴方は伊吹しか見えないのでしょう? 「その伊吹、二度と会えなくなっちゃうかもですね?」 「……はァ?」  ダン、と勢い良くついた手がテーブルを揺らし、コップに注がれたメロンソーダを波立てる。でも、こんなのに怯んでなんかいられない。 「だから、お話しましょう? いいじゃないですか、貴方の業についてなんですから」  私は伊吹がとても大切なの。だから、伊吹を散々振り回して傷付けるのは許さない。生半可な気持ちで私の隣から伊吹を取らないで。 「やだなァ、伊吹のオトモダチこわぁい」  そのヘラヘラした顔さえも、息吹を苦しめて、悲しませているんだと思うと、腸が煮えくり返そうなの。 「私は貴方が大嫌いです」

ともだちにシェアしよう!