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勘違い

「俺のことが大嫌い、かァ。きっついなァ」 「貴方が伊吹を苦しめているんです、嫌いにもなります」  すると、閑さんは片眉をつり上げた。 「俺が伊吹を苦しめた? それ本気で言ってる?」 「はい」  はーあ、とわざとらしい溜め息をついて、閑さんはオレンジの髪を掻き上げた。 「マスミちゃんはさァ」  さっきまで濁った冷たい色をしていたそれは、今は怒りを宿して粛々と燃え盛っていた。  不気味なほど静かに―何て言っただろう、バックドラフト現象? その直前のような不気味さ。 「何か勘違いしてるでしょ」 「勘違い」  うん、と閑さんは頷いた。それも大きなね、と付け加えて。 「マスミちゃんは俺が伊吹を脅すなり何なりして、無理やり『あんな関係』を持ってると思ってるでしょう」 「そりゃあ、伊吹が嫌がってますから」 「あっはは、大外れ〜」  お腹を抱えてバカ笑いする閑さん。一々勘に障る人だ。 「俺は強要したことも、脅したことも、一度もないよ」 「……は?」  じゃあ、何で伊吹は悲しんで、苦しんで、泣いているの?  常日頃読んでいるその手の類の知識は『フィクション』として切り離しているからか、その先にあった展開は全く予想できなかった。  不器用な受けキャラの、ポピュラーな気の引き方だったのに。 「だって」  だらしなくボックス席の背もたれに寄り掛かる閑さんの口が、勿体振る様にニィ、と片端だけつり上がった。 「伊吹から誘ってきたんだからさ?」

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