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実感

「おい、桜和! 放せって、こら!」 「往生際が悪いよ神楽。いいじゃんこれくらい。神楽がオトしてみろって言ったんだからさぁ?」  抱き込まれたあと何処へ連れて行かれたかと言えば、俺のクラス──2年3組だった。 「っていうか、何でここ……っ」 「神楽なら『自分のクラスの教室でこんなこと』みたいな感じでちょっと焦るかなぁと思って」 「──っ」  図星。既にその思考に脳は侵食されかかっている。  だって、ここは普段 授業を受けたりクラスメイトと話したりする場所だ。 決してこんな事をする……される為の場所ではない。断じて。  力強く抱き締められた身体は少しずつ火照り始める。耳元に囁かれる声は耳に毒だった。甘い甘い、それは甘美な毒。  普段が普段なだけに、また冗談だ、と……おもちゃにされているのだ、と思いそうになる。思いたくなる。だけどそれが冗談でも何でもないのは誰が見ても明白な、隠し様の無い事実で。  背中から伝わる温もりに、俺は実感させられた。  ──俺は、桜和に愛されている。

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