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本当のこと
「神楽、どうしたの? 猫みたいだよ」
言いつつも頭をなで続ける桜和。その手が何だかとても安心する。
いや、別に桜和だからとかじゃなくて。今たまたま助けられてちょっと警戒心が緩んでるだけで、安心してるのは錯覚みたいなもので、決してまだ安全牌と認めたわけじゃなし。
「神楽? 物思いに耽ってるところ悪いけど、送るから早く帰ろう? また轢かれそうになるのもイヤでしょ?」
「ぇ、あ、……」
フッと消えた背中の温度に名残惜しさを感じ………って違うッ!!
「ほら、颯爽と送って帰りたいとこだけど神楽の家、俺知らないんだから。ちゃんとしてくれないと攫ってくよ?」
微妙に冗談に聞こえないそのセリフに口元が引き攣る。
「……何処にだよ……」
「取り敢えず俺の部屋だね」
にっこりイイ笑顔。それだけ見れば人畜無害の青少年なのに、しかしザンネン、中身が黒すぎる。
「俺は塔の上のラプンツェルになるつもりも籠の中の小鳥になるつもりもないが?」
「神楽なら長い髪で外の世界へ飛び出したり差し出した指に噛み付いてきそうだね」
むすっと黙っていると、「それで」と続けた。
「危ない目にあって俺に頼ってくるの」
「今すぐその辺の川に沈めてやる」
ぷいっとそっぽを向いて桜和の前を足早に歩く。
桜和の顔は、『悪そうな笑み』だった。
──つまりは、本気だということ。
顔が熱くて熱くて仕方がない。
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