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零れる本音
「冷た……雪、止まないな……」
仕事が終わって、玄関を出ると、粉雪が待っている。もう暗くなったのに、まだ雪は降り続け、俺の頬に当たる度、水となって肌を伝った。そこが冷えて、また少し体温が奪われる。
「かーぐらー こっち向いて」
「何やってるんだ、さっさとかえ………」
──カシャッ
「んー! やっぱ雪と神楽はぴったりだね」
「な、は、はああ!? 消せ! 肖像権の侵害!」
「えー いいじゃーん」
「良くないから言ってるん、だ!」
松葉杖を放して手を伸ばすけど、ひょいとスマホをよけられて、桜和よりずっと背の低い俺は片足で踏ん張っているせいで、ただバランスを崩して桜和の胸に飛び込むだけに終わる。
「わー神楽ったらだいたーん♡」
「お前……」
倒れてきた俺をそのまま抱き留めて頭まで撫で始める始末の桜和。明らかにおちょくっている。
「だってさ、こんな綺麗なんだよ? ここは北海道とか新潟県でもないからなかなか雪も降らないし、雪の中の神楽ってレアじゃない? だから、せめて写真で残しておきたいじゃん」
「何かそれっぽくいいこと言ってるつもりなのか知らないが、ダメ、だ」
「えー」
大体、生徒はもういないけど、先生がまだ職員室にいる。こんなところを見られたらどんな解釈を受けるかわからない。
だけど、そんなことさえもまぁいいかと思えてしまう。どんどん桜和に毒されていく。
「……好きだなぁ」
「え?」
「……え?」
いま、のは………。
「神楽……? 今なんて…」
「っ!? え、あ、おれ……っ!」
ポロッと言葉が零れていた。
「──その調子♪」
正門の向こう側で、妖しく笑いながら白銀の中で黒髪をしっとりと濡らしたピエロがいることにも気付かず。
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