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こんな筈じゃなかった
予想以上に彼は、魅力的だった。
計算違いもいいところ。完璧な誤算だ。誰か笑ってくれ。
「ふぁ、ぁー……っ、しずか、さんっ」
好きになっちゃったりしたのは俺の方だった。
寡黙で、自己主張はあまり得意じゃなくて、でも正直もので、優しくて、気遣いが上手。それ故に、自分を殺しやすい。
そんな、まさに自己犠牲の化身ともいうべき彼に、俺は心の底から愛を感じていた。
愛。ラブ? 違う。でも、フレンドシップとか、そういうんじゃない。愛情とも形容し難い、もっと醜くドロっとした──そう、独占欲。
堪らなくなっちゃうんだ。身長は馬鹿みたいに高いくせに細い腰とか腕とか、そういう華奢なところも、染めていない暗めの色の髪も、セックスの時に潤んで見つめてくる髪と同じダークブラウンの瞳も。
零れ落ちた、涙さえ。
愛しくて、堪らない。
「……いぶき、」
いつも伊吹はセックスの終盤になると首元に抱きついてくる。それは、意識が朦朧としての無意識なのか、ソレを装ってるのか。
後者だったら、嬉しいな、なんて。
らしくもないこと、気持ち悪いこと、伊吹が相手だとどうにも俺の思考はそんな事ばかりに占拠される。
可愛くて、甘やかしてやりたくて、だけどそんなガラじゃなくて。
いつもこの言葉を言ってあげられるのは、伊吹が寝入ってから。
「愛してる、大好きだよ、伊吹」
本当に本当に。
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