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初めて聴いた
──……こんな恋ならしたくなかった……
ガヤガヤという騒音に混じって、伊吹の声が静かに流れ始める。
閑さんは目を見開いた。それでも、一回しか流さない、というのが効いたのか、一言も言葉を発しない。
──……俺、閑さんが何を思ってこんなことしてくるのか、もうずっと分からなくて………怖い、んだ……
閑さんは俯いた。和音さんの色違いみたいな長い髪が表情を覆っている。
──閑さんは…俺の顔、綺麗、だ、って…言ってくれ、て………っ
ぴくっと閑さんの肩が震えた。心当たりがあるようで、僅かに上がった顔は困惑していた。「何でそんなこと覚えてるの」と、言っている気がした。
──……おれ、は、好き、だけど……閑さんは…っ違うから……──閑さんをどう思ってるか、訊いてもいい?
「ち、が……いぶき……」
閑さんの顔がすうっと青ざめた。ああ、この二人は、揃いも揃ってこうなのか。
──……傍若無人で、無責任で、大嫌いで、器用な人で、独占欲が強くて、……
閑さんは再び俯いた。ゆっくり、がくりと。糸が切れたみたいに。
「ここからが一番聴いてもらいたいところなんで、気を確かにしてくださいね」
──……かっこよくて、大好き……だけど、こんな関係にはなりたくなかった
閑さんは静かに口元を押さえた。肩が小刻みに震える。
──終わらせたい? ──……もう会えなくなるのは、嫌だ。
再生を終えたスマフォをしまうと、私は大好きな幼なじみに対するお節介をまたひとつ焼く。
「伊吹、多分今は家にいますよ」
こくん、と頷いて閑さんは席を立っていった。
もう一度スマホを取り出し、今度はLINEの伊吹とのトーク画面を開く。
『今終わったよ。多分これからそっちに閑さんが行くと思う』
少しして、既読がつき、『分かった。ありがとう』というメッセージが届いた。
それを確認して、またしまうと、閑さんが座っていた席に目を向ける。
「……揃いも揃って、臆病者め」
まったく、漫画じゃないんだから。
テーブルの端に零れていた透明な雫は、拭っておいてあげた。
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