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救助

「ねー……仕事終わったよね? 救助来ないよね? LINEなり何なりで助け求めようよ?」  鞄からスマホを取り出して言う桜和。確かに文明の利器に縋りたいところではあるが… 「校則違反だろ……」  校則で校内は基本携帯・スマートホンの類は使用禁止だ。 「『基本』でしょ〜? これ、非常事態だよ? 帰れないよ?」 「………」 「かーいちょーうサーン」  ……久しぶりに聞いたな、桜和の「会長サン」。  「振り向かせてみろ」と言ってから一度も聞いてなかった気がする。 「……っひゃ!?」 「きーてるー?」 「き、聞いてる!」  思案(と言う名の現実逃避)をしていたら耳を甘噛みされて肩が跳ねた。 「俺のカンだとさー」 「………」 「あいつら、来ないと思うんだよ。俺たちから連絡するまで」 「……確かにだけど」  多分これは連絡しろって意思表示なんだと思うけど。  ここで許すとな……例外が何回も許されるようになりそうな気がする。 「そもそもね、神楽? もう守ってるやつの方が少ない校則だよ?」 「だから今日の仕事は生活強化運動実施の準備してただろ……!」 「正直効果は薄いと思うよー?」 「風見先生に言われたことだし、こうすることで校則違反なんだってこと再認識できるだろ!」 「ああ、神楽もそこまで強い効果を期待してるわけじゃないんだ」  こんなもので規律が守られるなら今頃世界は平和だ。 「じゃあ俺はそこに逆らう反逆者ってことで。副生徒会長が校則違反って、なかなかに背徳的じゃない?」 「黙れ阿呆」 「うっわ、彼氏にその言い草は酷いって」  そう言ってスマホのロックを解除し始める桜和。 「おい、やめろって……」  ぐ、と桜和の腕を引っ張ると、ロックの解除されたホーム画面が表示されていた。 「……桜和」 「消さないよ? 壁紙も変えないよ?」 「やめろ! いますぐ消せ壁紙変えろ!」  ホームの壁紙はあの、雪の日の俺の写真だった。

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