65 / 103

キス

「……眼鏡、取っていい?」 「なん、」 「取らないとキスしづらいし、視界悪くなって不安そうな顔が可愛いから」  そう言って、了解する前に眼鏡は奪われた。  ドクドクと心臓の音が半端ない。少し桜和が動くだけで肩が揺れる。 「……っふ、」 「〜〜〜ッッ!」  わ、笑った! 堪えきれずに思わずって感じで!  俺が息をつまらせて声にならない声を上げていると、桜和は目に少し涙を浮かべてクスクスと笑っている。……張っ倒したい。 「顔、真っ赤……緊張する?」 「……そういうお前はしないのか」 「俺? 俺はね―」  俺の手を取ってす、と桜和の左胸に当てる。その鼓動は、 「……緊張、してるよ?すごく」  とても早かった。 「だっさいでしょ。言いたくなかったのに」  に、と片頬をあげる桜和。ニヒルな笑みも様になる。  ドク、ドク、と軽く手を押し上げる振動と、涼しい顔した桜和の表情とのギャップが激しすぎて。  色々と、この埃っぽい部屋に蔓延る雰囲気に当てられそうだ。  目をあけているのさえ辛くて、きゅうっと強く瞼を閉じた。 「……そのまま、動かないでね」 「……っ」  閉じた瞼の向こうで、桜和が顔を近づけてきたのがわかる。髪に指を絡められて、肩にも手を添えられて。もう、逃げ場なんてない。 「大好き、神楽」  その言葉に、何が返す前に俺の唇はそっと、音もなく塞がれていた。

ともだちにシェアしよう!