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キス
「……眼鏡、取っていい?」
「なん、」
「取らないとキスしづらいし、視界悪くなって不安そうな顔が可愛いから」
そう言って、了解する前に眼鏡は奪われた。
ドクドクと心臓の音が半端ない。少し桜和が動くだけで肩が揺れる。
「……っふ、」
「〜〜〜ッッ!」
わ、笑った! 堪えきれずに思わずって感じで!
俺が息をつまらせて声にならない声を上げていると、桜和は目に少し涙を浮かべてクスクスと笑っている。……張っ倒したい。
「顔、真っ赤……緊張する?」
「……そういうお前はしないのか」
「俺? 俺はね―」
俺の手を取ってす、と桜和の左胸に当てる。その鼓動は、
「……緊張、してるよ?すごく」
とても早かった。
「だっさいでしょ。言いたくなかったのに」
に、と片頬をあげる桜和。ニヒルな笑みも様になる。
ドク、ドク、と軽く手を押し上げる振動と、涼しい顔した桜和の表情とのギャップが激しすぎて。
色々と、この埃っぽい部屋に蔓延る雰囲気に当てられそうだ。
目をあけているのさえ辛くて、きゅうっと強く瞼を閉じた。
「……そのまま、動かないでね」
「……っ」
閉じた瞼の向こうで、桜和が顔を近づけてきたのがわかる。髪に指を絡められて、肩にも手を添えられて。もう、逃げ場なんてない。
「大好き、神楽」
その言葉に、何が返す前に俺の唇はそっと、音もなく塞がれていた。
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