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第一章・5
「ここのチーズケーキ、自家製でとっても美味しいんだ。食べてみてよ」
「しつこいですね」
はぁ、と小さな溜息の後に、少年はようやくフォークを手にした。
一口すくって、ぱくりと食べる。
優しい甘酸っぱさと、とろける口当たり。
そのケーキは、本当に美味しかった。
「……おいしい」
「良かった」
竜也もケーキを一口食べて、笑顔を少年に向けた。
「私は、風野 竜也。クルス・不動産に勤めてるんだ。半年ほど前に、支店からこっちの本店に赴任したばかり」
「……僕、真宮 朋(まみや とも)です」
竜也の笑顔に誘われて、朋は思わず名乗っていた。
それは、竜也をひどく喜ばせた。
「今日は、いい日だな。こうやって、君の名前が聞けるなんて」
見ると、朋はもうスマホの画面を睨んでいる。
それでも彼を観察していると、時折ちらりと竜也の方をうかがっているのだ。
(無口だけど、いい子だな)
チーズケーキを完食してくれた朋に、竜也はさらに好感を持った。
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