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第二章 水族館のイルカ

 日曜日の朝、朋はカフェ・白樺に来ていた。  竜也とチーズケーキを食べた、あのカフェだ。  自炊が苦手な朋は、たまに摂る朝食を、ここのモーニングセットで済ませていた。  控えめに鳴るジャズをBGMに、静かに時を過ごしていた。  そんな時、再び朋の領域に入り込んで来る男がいた。 「おはよう、朋くん。一人?」  プレートを手に、竜也が視界に入ってくる。  返事を待たずに、向かいの席に掛けてくる。  朋は驚き、そして唇を尖らせた。 「今日は、いくらでも席は空いてますけど?」 「いいじゃないか。せっかくこうやって、会えたんだし」  朋が反論しようとすると、竜也はポケットからチケットを出して見せた。 「よかったら、一緒に行かない? 水族館」  同僚から招待券をもらった、と竜也は笑顔だ。 「彼、ホントはお子さんと行くつもりだったらしいんだけど」  その子が残念ながら水疱瘡にかかってしまって、家から出られないのだ。 「有効期限が、今日までなんだ」 「だから慌てて、僕を誘ったんですね」 「そういうこと」  悪びれもせずに答える竜也を、朋は小さく笑った。

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