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第三章 正吾と朋
朋がお茶の支度を終えた頃、正吾はやって来た。
背が高く、肩幅が広い。
短く刈った黒い髪に、白いものが混じり始めた、壮年のアルファ男性だ。
彫りの深い精悍な顔立ちだが、朋を見る目は穏やかで優しかった。
「朋。元気か?」
「はい」
正吾は必ず、まずは元気か、と訊ねる。
朋はそんな彼の第一声が、好きだった。
「コーヒー、淹れますね」
「うん。……おや? カメがいるな」
朋が考えていた通り、正吾はカメのぬいぐるみをさとく見つけた。
隠しておこうかとも思ったが、悪いことをしたわけでもないので、飾ったのだ。
「水族館に、行きました」
「そうか。水族館か」
ソファに深く腰掛け、正吾はかいがいしく動く朋に声を掛けた。
「私も、お前をそういったところに、連れて行ってあげるべきなのかな」
「好きになさってください」
「うん」
決して甘えてこない朋を、正吾は可愛く思っていた。
他にも愛人はいるが、誰もがべたべたとしなだれかかり、気に入られようと振舞ってくる。
朋は唯一、そんなところのない、稀有な子だった。
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