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第三章・2

 朋の淹れたコーヒーを美味しく飲み終えた正吾は、バッグから通帳を取り出した。 「これを、朋に」 「今月分は、僕の口座にちゃんと振り込まれてましたよ」 「別口だ。受け取ってくれ」  朋がその通帳を開くと、数えきれないほど0の並んだ数字が記入してあった。 「こ、こんな。僕、これは受け取れません」  通帳を差し返す朋の手を、正吾は優しく握った。 「実は、またガンのやつが再発してなぁ」 「えっ」  正吾はこれまでに、二度ガンを克服したことがある。  ただ、今回は勝手が違っていた。 「もう、体中いろんなところに転移しててな。脳まで、やられちまった」 「そんな」  今度ばかりは、年貢の納め時だ。  そう言って、正吾は笑った。 「朋に残してあげられるのは、これくらいなんだ。受け取ってくれ」 「正吾さん」 「大学で学んでもいいし、これを元手に事業を始めてもいい」  私の気持ちだ、と言う正吾の笑顔は、清々しい。  とてもガンを患っているようには、見えなかった。

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