18 / 107

第三章・6

 正吾の体をバスタオルで拭き上げながら、朋は思ったことを口にした。 「でも正吾さんが突然いなくなったら、いろいろと揉めるんじゃないですか?」 「そうだな。遺書くらい、残しておくかな」  しかし、と正吾は浮かない顔だ。 「それより、朋の方が心配だ。誰か、頼れる人はいないか? 好きな人とか」 「いいえ。僕は、独りでも大丈夫です」  天涯孤独の朋は、正吾がいなくなると全くの独りぼっちになってしまう。  それでも朋は、表情を変えることは無かった。  ただ、思った。  ああ、僕は。  荒海に投げ出される、水族館のイルカになるんだな。  ふとそこに、竜也の姿が浮かんだ。  明るい、笑顔。  いや、と朋はゆっくり首を横に振った。 「僕は、独りでも大丈夫です」  そう、繰り返した。

ともだちにシェアしよう!