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第三章・6
正吾の体をバスタオルで拭き上げながら、朋は思ったことを口にした。
「でも正吾さんが突然いなくなったら、いろいろと揉めるんじゃないですか?」
「そうだな。遺書くらい、残しておくかな」
しかし、と正吾は浮かない顔だ。
「それより、朋の方が心配だ。誰か、頼れる人はいないか? 好きな人とか」
「いいえ。僕は、独りでも大丈夫です」
天涯孤独の朋は、正吾がいなくなると全くの独りぼっちになってしまう。
それでも朋は、表情を変えることは無かった。
ただ、思った。
ああ、僕は。
荒海に投げ出される、水族館のイルカになるんだな。
ふとそこに、竜也の姿が浮かんだ。
明るい、笑顔。
いや、と朋はゆっくり首を横に振った。
「僕は、独りでも大丈夫です」
そう、繰り返した。
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