20 / 107

第四章・2

 就職してからは、竜也は母の元を離れてマンションで暮らしている。  会社が用意してくれた、社宅だが。  それでも、地方随一の不動産業が取り扱うマンションだ。  優雅で快適な暮らしを、送っていた。   『その会社にも、竜也は父さんのコネで入社したのよ』 「ええっ!? 何それ、聞いてないけど!?」 『黙ってた方が、あなたのプライドを傷つけないと思って』 「だったら、最後まで内緒にしててよ……」  とにかく母が言うには、無事に成人できたのも、一流企業に就職できたのも、父さんのおかげ。 『だから、ね。今のうちに、会っておきなさい』 「今のうちに、って。どういう意味?」 『父さん、末期がんで。もう長くないそうなの』 「な……!」  突然のことが多すぎて、頭が、心が追い付かない。  そんな竜也に、母は一方的に日時を決めてきた。

ともだちにシェアしよう!