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第六章・3
体どころか髪まで洗い、竜也はバスタブに浸かっていた。
大きな、広い浴槽。
足までのびのびと伸ばし、ふうと深い息をついた。
「朋くんが、私と結婚」
思えば思うほど、夢のような話だ。
「しかし……」
しかし、とも思う。
「こんなにトントン拍子に、事を運んでいいのか?」
多感な十代の、朋。
その彼の人生を、こんな風に大人の都合で、決めてしまってもいいのだろうか。
「もう一度、朋くんの気持ちを聞いてみよう」
そう決めてから、竜也は湯から上がった。
バスルームから出た彼を、脱衣所で待っていたのは朋だった。
「早かったですね」
「わぁ!」
慌てて前を隠す竜也に遠慮せず、朋は部屋着を差し出した。
「これ、正吾さんのです」
「父さんの……」
そう言えば、朋は父・省吾の愛人だったのだ。
そのことも、竜也の胸に小さいが鋭い針を刺していた。
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