40 / 107
第七章・6
「愛人という肩書に、泣いたこともありました。自由が欲しい、って」
「だから、水族館のイルカを見て悲しそうな顔をしていたんだね」
「でも。正吾さんがもうすぐいなくなってしまう、って知って。そしたら……」
ぽろぽろと、朋は涙をこぼした。
「僕は、愚かです。こうなって初めて、正吾さんを愛してたんだ、って気づくなんて」
「泣いていいよ、朋」
竜也はソファから腰を浮かして、朋の隣へ寄り添った。
「さっきも言ったけど、私のことを父さんの代わりにしてもいいから」
「竜也さん」
「急いで私のことを、好きにならなくてもいいから」
私はいつも、朋の隣にいるよ。
朋は、竜也の胸にすがった。
その服をしっかりとつかみ、泣きじゃくり、竜也の名を呼んだ。
名前を呼ばれるたびに、竜也は優しく朋の名をささやいた。
髪を梳き、手をさすり、背を撫でた。
アイスコーヒーの氷が溶け、小さな涼しい音を立てる。
氷が全て溶けてしまうまで、こうして朋を泣かせてあげよう。
竜也は、ただ優しく、彼の名をささやき続けた。
ともだちにシェアしよう!