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第八章・4

「何かまた……、増えてない?」  正吾の病室へ入った竜也と朋は、溢れかえらんばかりのお見舞いの品に目を円くした。 「全部、取引先や親戚からだ。だから、死期は内緒にしておきたかったのになぁ」  こんなに立派なメロンなんか貰っても、食欲がないので食べる気も起きない。  そう、正吾はこぼした。 「十和子のやつが、全部バラしちまって。私は、こっそり死にたかったのに」 「父さん。そう、死ぬ死ぬ言わないで」 「正吾さん、これ。少しですけど、お見舞いです」  肩身が狭そうに朋が差し出したのは、灯のように赤い、美しいシクラメンの鉢植えだった。  豪華な胡蝶蘭やシンビジュームに比べると見劣りする、朋が選んだシクラメン。  だが正吾は、その鉢植えをひどく喜んだ。 「そうか。もう、そんな季節なんだな」  私が理紗さんに告白したのも、シクラメンの季節だった。  そんな風に、正吾は語った。 「理紗さんとは、将来を誓い合ったのだが。残念ながら、家柄が違うと周囲に猛反対されてな」 「初めて聞くよ」 「理紗さんは、私のことは何一つ言わなかっただろう?」 「うん……」  その理由は、これだ。  正吾は服をはだけて、竜也に背を向けた。  そこには、朋の見慣れた極彩色の昇り竜が躍っていた。

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