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第八章・7
『一緒にいられるだけ、幸せなんだからな!』
父の言葉が、竜也の頭にこびりついて離れない。
そう。
人は、遅かれ早かれ、いずれこの世からいなくなる。
その刹那の生で、こうして朋といられる時間は、とてつもなく貴重なんだ。
「あの、さ。朋」
「何ですか?」
「引っ越そうかな……、朋のマンションに」
ぱあっと晴れた朋の顔に、竜也は素早くキスをした。
「え? あ、もぅ……っ!」
照れる朋の手を、竜也はしっかりと握った。
「好きだよ、朋」
「僕も、竜也さんのこと。……大好きです」
冷たい朋の手が、竜也の熱でどんどん温かくなっていく。
「寒くない?」
「大丈夫です」
木枯らしの吹く中を、竜也と朋は寄り添って駐車場へ歩いた。
正吾は、そんな二人を窓から目を細めて見守っていた。
「末永く、幸せにな」
そして彼はその日の夜、静かに息を引き取った。
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