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第九章・5
「父さんの話、だって?」
竜也は、怪訝な顔になった。
すでに、故人の正吾。
その彼についての話、となると……。
(遺産相続の話、かもしれない)
正妻と、その間に一子を設けている、正吾だ。
遺産は、二人に相続権があると思っている竜也だが。
ふと揺れた心に、男が急かしてきた。
『竜也さん。ここを開けてください』
『ぜひ、対面で告げたいお話があるのです』
「待ってください。あなた方は、父と。来栖社長とどういった関係なんですか?」
『我々は、来栖社長の腹心であられる方の、使いです』
『私どもの言葉は、その方のお言葉と思われてください』
「父さんの、腹心……」
父は。
正吾は、その人に何か言葉を託したのか。
亡くなった父は、何やら火種を遺していったようだった。
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